「一目惚れ」とは、まさにこんなことなんだろう。
1993年10月、僕は一台のちっぽけなキャンピングトレーラーに恋をした。
その名はカシータ(Casita)。
スペイン語で「ちっちゃな家」を意味するこのトレーラーは、
豪華絢爛な自走式キャンピングカーの並ぶ、とあるショウの片隅にぽつんと置かれていた。
1993年。僕らのアウトドア生活は大きな変化の年を迎えていた。
長男が生まれ、ついに子持ちとなった僕らはそれまでのようなハードなそれではなく、
いわゆるオートキャンプと呼ばれる快適性を追求するキャンプへの転換を始めていた。
小さなフィアットに目一杯の荷物を積込んで慣れないオートキャンプ場に向かう日々。
生後間もない長男を抱きながら、以前より大きく重くなった装備を下ろし
普段の夕食よりもずっと凝った料理を作り、倒れこむように眠る。
小さな長男はすぐにそんな生活に慣れたが、
僕らはそんなキャンプに少し疲れを感じていた。
「これってエンジンはどこなの?」「トレーラーですからエンジンはありません。」
「バカ、タイヤ2つでどうやって走るんだよ。」「4輪のもありますよ(苦笑)。」
そんな妻のつまらない質問にも笑顔で答えて下さる営業の方。
豊かなアメリカのリビングを思わせるインテリアが多いキャンピングカーの中にあって
カシータのそれは、まるで小さなヨットのキャビンのように質素だった。
そうか、こいつは陸を走るヨットなのだ!
そんな考えが頭をよぎった時、僕はもうコイツに恋をしていたのかもしれない。
陸を走るヨットが欲しい。7年がすぎた今もその考えは色褪せることはない。
I
Want You,Casita!