FLAME LAYOUT

 

 

 

 

 
 

 

 

 

 

11月16-18日 群馬グランドキャラバン(群馬県)

 


紅葉真っ盛りの妙義山をゆく

 

群馬キャラバン前夜はともちゃん、Masa、僕の3人で家族会議。(Azuはソファでスヤスヤ...笑)明日に迫った週末の行き先を巡っての討議である。僕は今週末が今月最後の休みで、次はいつ休めるか判らないし、来週は期末テスト期間にも入るので、高校受験の前にスキーの計画を入れてご満悦...お気楽なMasaはともかく、マジメなAzuは泊りがけで遊びに行くのはNGに違いない。それだけに昨夜の家族会議は真剣そのものである。
(子供たちが小学低学年の頃は親の一存でいつでもどこでも出かけられたけど、2人が中学生ともなった今は、もうほとんど大人4人も同じ。そうなると年齢も性別も趣味も全てが異なる4人が一緒に楽しく月に一度、多くても二度しかない週末を過ごすためには、行き先を決めるだけでもかなりの労力が必要なのだ。)
行き先の最有力候補はMasaが長年...ホント5〜6年前から行きたがってた妙義山。

去年、上信越道から念願の対面を果たし、それ以来暇さえあれば『妙義山、妙義山』と唱えるほどだ(笑)。5年前にMasaが妙義山に行きたいと言い始めた時、僕はネットでどんな山なのかを検索してみたわけなんだけど、まず目に飛び込んできたのが、近年、“世界一遭難者の多い山”としてギネスブックに掲載されている谷川岳を遥かに引き離して、名実ともに“遭難者数世界一”になっているという事実。怖ぇぇ〜!
ただ、ことあるごとに“山で死んではいけない”などの遭難本を読み進めるうち数字上は確かに“遭難世界一”でも、その“遭難”の内容がかなり違うことに気付く。

谷川岳はよく知られているように“アルパインクライミングの修行場”的な山で、遭難事故の多くが本格的な岩登りの際に起きている。つまり遭難を起こすのは山岳会に属しているようなある程度山を知る“クライマー”である。それに反して妙義山の場合、そのほとんどが昨今のファミリー&中高年登山ブームに乗って山登りを始め経験不足&技術が未熟ゆえに滑落してしまうビギナー“トレッカー”や中高年“ハイカー”...のようなのである。

さて、我が家はどうだろう?これはもう紛れもなく後者。その上 “トレッカー”でも“ハイカー”でもなく“パドラー”だったりする(笑)し、家族の約2名は小学生(*5年前は...)で、オヤジは高所恐怖症...5年前の段階ではMasaには悪いけど迷う余地もなく「無理」と判断した次第だ。

その後、伊勢山上や大峯の表・裏行場&石鎚山の鎖場を経験したり、子供たちはクライミングウォールに親しんできたりしたものの、相変わらず“なんちゃって”の域を出ない我が家の山登り。ただひとつの救いは子供たちの身体が大きくなって(Masaは170cm、“ちびっ子”Azuも156cmを越え、それぞれMサイズのウェアを着るようになった)体力的には全く問題がなくなりつつあること、そして精神的にも両親をたしなめるほどの慎重派でそそっかしくないこと(苦笑)。


カヌーを積んでフル装備の出発2時間前のダッちゃん

信仰の山に傾倒する母と岩山フェチの息子の強烈なプッシュに、去年の秋あたりから何度もチャンスを覗っていたものの日程や気候の条件が上手く合わず、今回満を辞して行けそうなんけど、やはり“遭難者数世界一”の言葉が頭をよぎる。確かにネットや山の本でルートやコースタイムなどの情報は詳細に知ることが出来て便利だけど、こと“危険度”に関しては信用に足る情報がない...というか仮にそんな情報があったとしても、会ったこともない筆者の“体力”“経験”“装備”“気持ち”などの人的要素、“季節”“気候”“天気”などの自然要素など無数の要素がどうであるかによって、感じ方は全く違うわけで、その難易度は実際に登ってみるまで判らないってのが正しい。
『あれこれ考えたって、行ってみないとワカンないでしょ?』ともちゃんの言葉が正解なのである。

ただし、これも全ての条件が揃った場合に限られるわけで、山麓・富岡市の土曜日の予想最低気温が1℃で群馬の日曜は雨という情報を聞くと気分が萎えてしまう(ちなみに大井川の予報は晴れ!)。『妙義山はヤバイって!やっぱり大井川にしようよ。』基本的にカヌーにも行きたい僕は、妙義山を止めて大井川カヌーにする、あるいは妙義山が無理だったら大井川に移動すればいいじゃん(妙義山と大井川は400kmの距離だけど...)ってことで木曜の夜にダッちゃんに3艇のカヌーを積み込んだのだけど... 『カヌー積んでるってことは、妙義は半分諦めたってことだろ?』などとMasaがスネ始めたので、結局出発寸前に妙義山だけってことに決定し、カヌーを倉庫に戻して午後8時出発。!(疲れる〜!)

途中のSAで夕食を食べたりしながら、最近ではもう自分の庭のようになってしまった伊勢道〜東名阪〜名古屋高速〜名神〜中央道と乗り継いで進む。駒ヶ根で休憩を取り、ここからは運転をともちゃんに代わって僕は後部ベッドで寝ることに。そして目が覚めると...『はい、着いたわよ。』いつのまにやら道の駅・みょうぎに到着してるし!左ハンドル車ならば何でも来い!ダッちゃんさえも乗りこなしてしまうオクサマに感謝の瞬間だ。

時刻は0時を少し回ったところ。すぐにFFヒーターをONにして、ベッドを展開しシュラフを広げて、オヤスミモードに。ただ、子供達はこの時点で4時間、僕もともちゃんも2時間づつぐっすり寝てるし、これから日の出までの睡眠時間を足し算すると8時間以上になるわけで、全く焦りはなくビ−ルをプシュッ!とやって道の駅みょうぎの夜は更けていくのだった。


妙 義 山


日の出前の妙義山

赤く染まる妙義山とMasa

道の駅・妙義山で目覚めたのは午前6時。ベッドの脇に設置した外気温計は氷点下1℃を表示している寒い朝だ。太陽の光が届かない妙義山は何か青黒い塊のよう。ところがしばらくすると山頂が真っ赤に輝き始め、その赤がまるで紅葉前線の降下を早回しで見てるように徐々に山麓に向かって広がっていく。...すっげぇ!自然が僕らに見せてくれるダイナミックな光の演出に言葉を失う。

ふと気が付けば、僕と少し離れた場所には妙義山を見上げて立ち尽くすMasaの姿。いつもなら最後までグズグズ寝ている彼が今朝は真っ先に起き出し、ダッちゃんの外に出て朝日で真っ赤に染まっている妙義山をひとり静かに眺めているのだ。Masa、5年越しの夢である妙義山...氷点下の駐車場に感慨深げに立つ彼の目には心なしか涙が光っているような...見るだけで涙目になるほど憧れ続けた妙義山の登山がもう間もなく始まるのだ!!


今からあの稜線を目指すのだ!(中腹に「大の字」が見える)
CLICK

寝起きに簡単な朝食を済ませ、各自、自分の判断でウェアを選ぶ。さすがに冬山用のハードシェルは大袈裟かも?とは思ったけど、天候の急変に備えて僕とMasaは万一に備えて着ていくことに(イザという時は寒さに極めて弱い我が家の女性陣に貸与することになる)。女性陣は普段の秋山登山ウェア+フリース+60/40パーカ+レインウェア。装備は岩登りに備えてミニマムだけど、ツェルト&エマージョンシーブランケットや4人×2日分の非常食、ヘッドランプに焚き火セット...一応は氷点下で一夜を明かせるだけの装備を持参する。それでも我が家で一番体力があるMasaが40LのBergansHerium満タンにほとんどの装備を担いでくれるおかげで僕ら3人は20L〜25Lのデイパックという軽装である。


妙義山の岩峰を目に焼きつけつつ
妙義神社の参道をゆく。

アルパインウェアでフル装備のMasaと
60/40でハイキング気分の女性陣(笑)

準備が完了したところでダッちゃんを道の駅の直下にある登山者専用駐車場に移して8:00ちょうどに登山開始。まずは妙義神社の大鳥居をくぐって参道をゆく。僕らの正面にはまるでノコギリで出来た衝立てのような妙義山。中腹にひときわ輝く「大」の字の白さが眩しい。


妙義神社裏手の紅葉

参道の先にある妙義神社は台風による被害の復旧工事のため、残念ながら境内は立ち入り禁止。『残念だなぁ〜。でもこれでもう一回妙義に来る理由が出来たわね。』ポジティヴシンキングなともちゃんだ(笑)

そんなわけで僕らは宝物殿で神様に一礼し、登山道の「大の字コチラ」の看板に従って神社の脇を素通りして進む。大ノ字への登山道は始めからかなりの急登で、しばらくは杉の巨木が立ち並ぶ神社の境内っぽい薄暗い森。石垣が崩壊した台風の爪痕を越えるとすぐに美しい紅葉に染まる森へと入る。右側に沢音を聞きながら要所要所に木の階段が設置された道を進む。ジグザグだけど特に危険なところは無い歩きやすい道だ。
いつもならすぐに不平不満を訴えるAzuだけど、今日は地面に落ちている美しい紅葉や可愛らしいドングリを拾いながらの登山にご満悦。終始笑顔で足取りも軽く...時折現れる鎖場も鎖を使わずよじ登り、終始先頭で何とコースタイムを大幅に短縮する驚異的なペースであっという間に「大の字」下に到着である。


大の字までも鎖場が何ケ所かあって
気を抜くことは許されない


上:道ばたのムラサキシキブ
下:絶対に鎖を使おうとしないAzu。根性あるよなぁ...

大の字岩塊の麓に立って見上げる大の字の鎖場は一見それなりに急傾斜で難しい印象だけど、良く見ればホールド(手がかり)やスタンス(足がかり)がしっかりしていて鎖がなくても全然大丈夫なほど。
『良く見ておけよ!』という言葉を残し、まずはMasaが躊躇なく一気に登り切る。続いてともちゃんがヘッピリ腰で怖々登り、そしてAzuの番だ。ところが僕らの期待(?)を裏切って、彼女は鎖をほとんど使わずにスルスルと登って行く。
『たっのしぃぃ〜!』『鎖使えよっ!』『やだも〜ん!』
へっ?そんなAzuの姿に唖然とする僕らだけど、よく考えたら石鎚山の垂直&水濡れズルズル50〜60m三連発の鎖場で唯一腕が痛くならなかったのは彼女だったんだっけ。あの時は“試しの鎖”じゃ鎖を一切使わずに登りきってしまったし...。


大の字の鎖場をスルスルと登る“おサル”なMasaと
不安げに見上げるこちらも申年のともちゃん

抜けるような青空に映える大の字と笑顔の我が家
(Masaの右は垂直の断崖絶壁)

抜けるような青空をバックにほとんど平らな部分のない尖った岩峰の上に建つ大の字。鉄骨に板を貼ってあるだけのシンプルな作りだ。山麓駐車場から見てると豆みたいに小さかったのに、実際にそばまで来るとかなりの大きさで、逆に山麓の道の駅がミニチュアのように見える。ただ驚きなのは、道の駅が見えるその角度!崖の縁まで進んで見下ろさないと見えないほどのほぼ真下...とんでもない場所に立っていることを実感する。


裏から見ると大の字はこんな造り(笑)

ホントはここで家族揃って“大の字のポーズ”で写真を撮りたかったけど、他の登山者もいてちょっと恥ずかしかったので(笑)、普通に大の字で記念撮影を済ませた鎖を使って下に降り立って再び登山道に戻った僕らは奥の院を目指す。
時折Masaを追い越して先を急ぐAzu。どうしてそんなにさっさと行くのかと思えば『だってみんなが追い付く間にドングリ探せるでしょ?』ナルホド。登山で何が心配ってAzuのご機嫌が心配なわけで、今日みたいにAzuが元気だとみんなが楽しい!


「辻」にある“キケン!上級車コース”の表示

そんなの関係なく紅葉で遊ぶAzu

ほどなく「辻」を通過。岩に書かれた「キケン 上級者コース」の黄色い文字が僕らの緊張感を高める。てっぺんが見えないほどデカい岩塊を巻くように登ると、正面に白雲山妙義大神が祭られる奥の院が見えてくる。左右の尖った岩壁(ゴルジュ)の間に大きな丸い石が詰まった感じで窟になっている場所だ。窟の奥へは鉄製の梯子が架けられていて、僕らはその梯子を登って奥の院の祠にお参りする。


空気までもが黄色一色に染まる森

さて、ここから先は掛け値なしの上級コース。事前の相談で今回は比較的事故の少ない範囲...妙義神社から大の字を経てここ奥の院までをコアルートに決め、この先の縦走路に進むかどうかは実際に鎖場の下に立って判断するという取り決めなのだ。100%安全って思えることはまずないけど、仮に僕がほんの少しでも迷ったら絶対に登らないで、中間道のハイキングに切り替えるという約束である。

昨日、2年前にこのコースの縦走を果たし、先週も中間道をトレッキングされたカヌー仲間のミエさんにメールで訊ねたら、奥の院まではまず大丈夫だけど、その先は『Azuちゃんは絶対のゼッタイに無理』とのこと。上級者コースだしぃ〜、ミエさんも無理って言ってるしぃ〜...奥の院の先は断念して当たり前、もしも条件が合って縦走出来たらラッキーぐらいの何が何でもという悲壮感なし&お気楽な気持ちで目の前の垂直の岩壁を見上げることが出来る(もし『Azuちゃんでも平気よ』なんて言われてたら止めるのに勇気が要ったと思います。ミエさんアリガト〜!)


奥の院横を垂直に延びる鎖場を登攀。ホールド&
スタンスがしっかりしてて見た目ほど難しくない

上:奥の院に到着
下:窟の中に入ってみる

確かにAzuは「みえこどもの城」のクライミングウォールで“マッターホルン級”を取得済み(爆笑)だし、ここ最近は伊勢山上や石鎚山で岩場&鎖場に慣れているものの、これまでも身体が小さいゆえ物理的にホールドやスタンスに手足が届かずに断念するパターンが多かったのも事実。(鎖に全体重を掛けて腕の力だけで登るだけの腕力はないし、手が滑ったり手にアクシデントが起きた時は即滑落を意味するので危険)

でも奥の院から見える範囲に限れば鎖なしでもホールド&スタンスだけで描けるルートが何通りかあって...まずはMasaを偵察に行かせ岩の状態を確認させる。
『手がかりは深いし位置は完璧だ。岩肌は...大峯より少しマシな程度のμかな?岩の強さは...伊勢山上よりはあると思う。』姿の見えないMasaからは的確な報告(笑)。


青空に向かって垂直に登る。左上の一本杉がほぼ垂直に
生えてることからもその角度が判ってもらえるだろうか?

後続が誰もいなかったので試しにちょっとだけ登ってみる!と言って登り始めたAzu。その姿を見てると体重は三点のホールド&スタンスに乗せ、鎖はあくまでも補助に使って全く危なげなく...全然余裕で全てのホールドに手が届いてるじゃん!

『おーい、Azuぅ〜!オマエ身長何センチぃ?』
『ワタシ?9月で156cm!今はもう少しあるかもぉ〜!』
『へ?じゃぁともちゃんと変んないじゃん!』
『うん、でも脚はともちゃんよりワタシの方が少し長いのぉ〜!』(一同爆笑)

そんなわけで、先にさっさと登り切って上から『右!左!もっと上のソレ!そこ、ザックが引っかかるぞ!』などと指示を出すMasaの言葉を聞いてスルスルと登って行くAzu。

『下を見るな!怖がらないでいいぞぉ〜!そうそう急がなくていい!時間はたっぷりあるからなぁ〜』『次の一歩、一手を始める前に、今、体の位置が安定してるかを確認しろ!三点がしっかり確保されてたら落ちない、大丈夫大丈夫。』
なかなか堂に入ったお兄ちゃんぶりのMasa。

そんな“立派な”兄に対し、父親は...
『Azuぅ〜、写真撮るぞぉ〜!』『えっ?写真?ピース!』
ヲイヲイ、そんな場所でピースサインはしなくていいから!

そういえば僕やともちゃんはもちろん、Masaまでもが汗だくでFinetrack一枚になっているのに、Azuだけはずっと60/40パーカを羽織ったまま...汗もかかずに一番余裕があるのが彼女みたいだ。


「見晴し」手前のこの鎖場が一番危険だったかも

「見晴し」ようやく稜線に辿り着いた!

そんなわけで第一の難関である奥の院の鎖場を無事クリア。短いトラバースで信じられないV字谷を渡り、右側がストンと切れ落ちた鎖場を慎重に登ると、一気に視界が広がる。「見晴」に到着だ。(ここまでコースタイムを15分以上短縮。かなりのハイペース)

ここはまさに朝、駐車場から見上げた妙義山のあのギザギザの稜線!Masaは自分が憧れの稜線上に居ることが信じられないって感じで何となく声を震わせちょっとウルウルしてる。君がそこまでココに来たかったのか!大井川カヌーじゃなく妙義山にして良かった!感動の一瞬である。
もちろん感動はそんな達成感だけではなくて、見晴の岩の上からは眼下に裏妙義の鋸状の岩峰群、そして遠くに山頂に雪をかぶった浅間山など、まるで自分が鳥になって空を飛んでいるようなスッバラシイ絶景を楽しむことが出来る。努力した者だけが目にすることが出来る光景...山からの素晴らしいプレゼントなのだ。


見晴しからの眺め。裏妙技、浅間山が一望
CLICK

ここからは、天狗岳まで激しいアップダウンを繰り返す妙義山の痩せた稜線を縦走するコースになり、鎖場&岩場の連続となる。見晴の絶景から数分で「ビビリ岩」と書かれた岩が現れる。まるで垂直にも見えるゴツゴツした大岩がほぼ垂直に立ち上がり、後ろは断崖絶壁でスパッと切れ落ちていて、マジでビビる岩だ。岩の斜面には3段の鎖。まず最初、約2mの鎖で垂直の岩に登り、次の鎖でトラバース気味に斜めに岩を渡り、最後の鎖でスベスベなビビリ岩の上に登るという怖い岩場。実際の難易度はさほどでもないし自分が登ってるぶんにはノープロブレムだけど、、浅間山の素晴らしい眺望を背景に登るAzuを見てると、メソメソな弱く頼りないAzuを良く知っているだけに逆に高度感が倍増してヤバイ。久々に金●マが縮み上がる感覚を覚える(笑)。


「ビビリ岩」まさにその名前の通りかなりの高度感
落下=即死を意味するので慎重に

上:笑ってるけど、ともちゃんの一歩後ろは断崖
下:玉石のてっぺんでランチタイム

ビビリ岩の鎖場を上り詰めるとさらに展望が良くなり、いよいよ気持ちの良い稜線歩きが続く。ビビリ岩からさらに数分で白雲山山頂(標高1104m)。ここは少しルートから外れていて見落としそうになるけれど、岩を数m登ると360度の眺望が楽しめる3m四方ぐらいの狭い山頂に着く。

休憩出来る場所ではなかったので、そのままさらに「玉石」まで進んで、てっぺんの岩で初めての休憩。ザックを下ろし超早いランチタイムとする。岩の縁に座り、足をブラブラさせながらおにぎりを頬張る。『絶景ねぇ〜!』11月の1000mを超える場所とは思えないポカポカ陽気はまさに小春日和で、何となく眠くなってくるほどののどかさ。


危険なトラバース道をゆくMasa

岩山大好き!なAzuは超ゴキゲン

玉石からは胎内くぐりの穴をくぐってルートに戻り少し下って登り返す。すぐに塔のように尖った岩場に到着。岩場の西側は鎖が垂れ下がった10〜12mほどの岩壁。ここをAzuは鎖を使わずに下る。エエ根性してるのである。さらに進むとさきほど見晴で話した老夫婦&息子さんの3人が絶壁の縁に座ってランチタイム中だ。『すごいところでご飯食べてたわねぇ。』え?大覗きから正面に見える玉石を振り返った僕ら、足がブルブル震えるような恐怖感を感じることになる。玉石はその名の通りまさに玉石で、呑気にメシ喰ってる場合じゃないとんでもない場所だった!


玉石直下の胎内くぐり

へっぴり腰で岩を下る

手すりも鎖もない狭い登山道

その下を見下ろすとこんな感じ(怖っ!)


大覗きから天狗岩と金洞山を望む

ここから5分ほどで「御岳三社大神」と刻まれた小さな碑が立つ「大覗き」のピークに到着。天狗岩と金洞山の絶景が素晴らしいビューポイントだ。

幾多の鎖場、ほぼナイフエッジ、急角度な岩に張り付いてのトラバースなどを慎重にクリアし、 10mほどの斜めの鎖を慎重に下るとコースマップに「スベリ台状30mの鎖場」と恐ろしいことが書かれている鎖場の上部に着く。


実はこんな尖った岩の上(右側は100m以上の断崖絶壁)
またしてもAzuは鎖を使わずに下る

上:普通の道ではこうしてリラックス
下:笑ってますが...

登山口のルートマップに奥の院の鎖場とともに「危」マークが着いてた場所だし、僕らの前では僕らと同年代のご夫婦がハーネス&ザイルを使って奥さんを降下させてるのを見てちょっとビビる。見下ろすとどうみても30mやそこらではなく、30mが三連なんじゃないか?って感じ。しかもキレットの平地が見えないことが余計に不安を感じさせてくれる。


ついに「スベリ台状30mの鎖場」に取り付く

無事に下りてピース!

ただここはこれまでのようにホールド&スタンスがなく、鎖に頼るしかない。鎖に体重を預ける決意さえ出来れば何も問題はないわけで、要するに“案ずるより産むが易し”(笑)。Azuとともちゃんは鎖を股に挟んで消防士さんのようにスルスルと滑るように下っていく。
『鎖下り最高!楽しい!楽しすぎる!』ともちゃん絶叫(笑)。彼女の下り所要時間90秒(!)
『そうよワ・タ・シは鎖場のオンナ♪』歌わなくてよろしい!


「スベリ台状30mの鎖場」全景。スタンスが
しっかりあり、見た目ほどの恐怖感は感じなかった。

上:岩山フェチのMasaは余裕のポーズ
下:天狗岳の裏手を巻くように進む

キレットから少し登って日陰の北側斜面に出る。岩場ではない久々の落ち葉のじゅうたんのフカフカ感を味わいながら苔の美しい斜面を登ると錆びた看板の建つ天狗岳の山頂である。狭い山頂はシロヤシオだろうか?ツツジ系の細い枝が視界を遮っていて眺望はイマイチだけど、座るのにちょうど良い段差があるのでここで二度目の休憩。ザックからサンドイッチを取り出して晴天無風の暖かい光に包まれる山頂でのんびりと過ごす。

 


天狗岳のピークにて

ここからは落ち着いた色調の尾根道をしばらく進み、西肩と呼ばれる岩場に立ち寄る。ルートに目を取られ見過ごしそうになる場所だけど、Masaがフリークライムして遊びたい!なんて言い出したおかげで立ち寄ることができた西肩は、間近に相馬岳、次に裏妙義の峰、そして浅間山から荒船山、天候によっては遠く八ヶ岳までも望むことが出来る、今回のコースで一番の眺望である。


美しい尾根道をゆく

西肩の岩でフリークライムして遊ぶ

稜線を外れ天狗岩の北斜面を巻くように落ち葉の道を進む。太陽の光がないぶん底冷えする区間だし、落ち葉が木の根や浮石を覆い隠して足挫きに注意が必要だけど、それまでのロックホッピングの緊張感はない優しい森だし、周囲の風景がめまぐるしく変わり飽きさせない。美しい落ち葉の絨毯の森をのんびり散策しながらタルワキ沢のコルに向って下り始めて7〜8分で人の横顔をした人面岩が現れる。これがもうMasaそっくり(爆笑)。Azuは早速“まあくん岩”と名付ける。


西肩からの眺め。左から相馬岳と裏妙義の山々
CLICK

まあくん岩から5分ほど下ると、唐突に天狗岳と相馬岳との最鞍部「タルワキ沢のコル」に出る。ここでザックを下ろしていつもの“山頂カフェ”開店。Masaと僕はコーヒーを落とし、ともちゃんとAzuはミルクたっぷりのココアで身体を暖める。

タルワキ沢のコルで
僕『石鎚山の三ノ鎖よりは怖くなかったねぇ。』
Azu『アキちゃん、それは絶対に言っちゃだめ!この先にどんな場所があるかワカラナイんだから、感想はダッちゃんに戻ってからね。』
Masa『それにブログとかに危ないとか危なくないとかどっちも絶対に書いちゃダメだよ。危ないって書いたらこんな素晴らしい場所に来るのをあきらめちゃう人がいるかもしれないし、危なくないって書いたら、覚悟せずに来ちゃう人がいるかもしれないからさ。』
Azu『そうそう、ワタシに怖いとか平気とかも言わないで!怖くなったり油断したりしちゃうから。』

はいはい。


Masaに似てる「顔面岩」

タルワキ沢のコルで“山頂カフェ”開店


相馬岳のルートを阻むような倒木に腰掛けて

間もなく相馬岳方面からさきほどザイルで降下してたご夫婦が戻って来て相馬岳ピストンを勧められる。ま、行けなくはないけど、“山頂家族会議”の結果、今の楽しい山歩きが我慢大会になるのを避けて、ここからタルワキ沢沿いに「中間道(ふれあいの道)」へ下ることに決める。


コルからこれから下るタルワキ沢を見下ろす

白雲山をバックにタルワキ沢を下る

タルワキ沢はその名の通り急傾斜の涸れ沢で、思っていた以上に急峻。たぶん大雨の時は滝になるのだろう、ルート上の石という石が全て浮石になっていて、しかもそれらが落ち葉で覆い隠されていてとても緊張する。とにかく落石を起こさないよう注意が必要だ。“下りの女王”ともちゃんも浮石に足を取られ『グエッ!』『ギャオッ!』などと変な悲鳴を上げるので、いつもは母親を“ともちゃん”と呼んでるAzuが“キョロちゃん”(*チョコボールのキャラクター)と命名(笑)


ほの暗い沢沿いの道

途中でこうして遊ぶ余裕も

加えて登山者の踏み痕と沢の水の流れた痕の判別がとても難しく、“鬼の末裔”である僕も時々GPSを確認する必要があるほどに道迷いが起きやすそうな雰囲気。(しかもこの沢は天狗岳と相馬岳が垂直に立ち上がったゴルジュの底なので、GPSがしばしば衛星を捕捉できずロストする場面も)ただし、ここの紅葉は言葉を失うほどの美しさ。


ブナの老木とピ−ス!なAzu

高度を下げるにつれて紅葉が美しくなってきた

急傾斜な稜線がこの山の険しさを物語る

やはりAzuは鎖に頼ろうとしない(苦笑)

僕がルートをロストしないように目配りをしてる横で女性陣は呑気に『きっれ〜い!』『すてきぃぃぃ〜!』を連呼。ドングリも色鮮やかな落ち葉もいっぱいあってAzuは終始ゴキゲンだ。とにかく落石を起こさないよう、また足をねん挫しないよう注意を払いつつ、奇岩が林立するスッバラシイ紅葉を楽しむ。

間もなく何の前触れもなく、絶壁に行き当たる。涸れた滝の滝口のようだ。右側に3連の鎖が垂れた迂回ルートがあり、慎重に下りきると天狗岳の崖下の2ヶ所このルートで遭難した人を悼む慰霊プレートが岩壁に埋め込んであった。


まるで錦絵のような紅葉が続く


さすがにココは鎖を掴む(Masaの右上に慰霊プレート)

紅葉と岩稜

下り始めて30分ほどで中間道に突き当たり、左折して妙義神社を目指す。ここは「関東ふれあいの道」として整備が行き届いていて、それなりのアップダウンはあるもののタルワキ沢とは全く違うとても歩きやすい道だ。この道沿いの紅葉は息を飲む美しさで、さほど足元に気を配らなくていいぶん、道の両側の赤と黄色の紅葉を心から堪能することが出来る。


GPSがなければ非常に迷いやすい道だと思う。

登りてぇ〜!

関東ふれあいの道(中間道)に合流

第2見晴しへと進む

コース脇には大黒の滝や第二見晴、第一見晴などの見晴台もあって山頂の稜線上からとはまた違った角度で金鶏山や林立する岩峰の絶景を楽しむことが出来る。合流地点から2kmほどで妙義神社の本殿の脇に出る。本来はここからお礼参りかたがた神社の境内を通って駐車場に戻るのだろうけど、今日は境内が立ち入り禁止なので、神社関係者が使う車道を迂回し、下仁田ネギを売ってる地元物産品の売店方向へ下り、そこから妙義神社の赤門を経て道の駅へと無事戻ることが出来た。心配したAzuのグズグズもなく、ともちゃんの逆ギレも、Masaのそそっかしい怪我もなく15:00ゴール。


妙義山中腹を延びる「ふれあいの道」は素晴らしいトレッキングルート


高低差もそこそこあって歩き甲斐のある
トレッキングルートは落ち葉の感触が気持ち良い

上:整備が行き届いててとても歩きやすい
下:第一見晴に立つMasa

結局、素晴らしい天候と体調、そして気力が充実していたことなど諸条件が良好だったし、これまでに経験した岩場&鎖場と冷静に比較しても、鎖場自体の距離&高度も小さくて、岩場の傾斜も緩く明瞭なホールド&スタンスがあり鎖に全体重を掛ける必要がないことから、進むか否か迷う要素すらなく縦走することが出来たんだけど、仮に気温があと少し低かったら?前日に雨が降っていたら?誰かの体調に異変が出たら?...間違いなく命の危険がある場所だったことは間違いない。


岩山と紅葉のシルエット

妙義山...それは箱庭のような狭い範囲で充実した岩山登りが楽しめる素晴らしく楽しい山。でもその反面、普通の山ならば絶対に鎖が掛けられ「危険」って看板が立ってるはずの場所にすら鎖もロープもなくて、ホールド&スタンスがしっかりしていれば10m程度の岩も平気で黄色や白のペンキのマーキングに従って登ったり降りたりするしかない“登山者を大人扱いする山”でもある。

『この矢印って“岩山ですが、何か?”“落ちたら死にますが、どうぞ。”って感じだよな。全然媚びてないっていうのかな?この山が人だったら友達になれそうな感じ。』

そんな山なのである。


ゴールにある物産市で見た下仁田ねぎ

妙義神社赤門にゴール

Azuのお気に入り「こんにゃく大福」

妙義山をバックに栗ソフトで疲れを癒す


中之岳駐車場に移動する(バックは金洞山と石門群)

鳥居横の土産物屋さんでお買い物を済ませ、道の駅で妙義山を眺めながら栗ソフトクリームに舌鼓を打った後、僕らはダッちゃんに乗って中之岳神社へ。門前の茶店で軽い食事を済ませてすっかり日が落ちた神社を歩く。長い石段を上がって薄暮の轟岩を見学し、今回の妙義ミッションは終了。


巨大な岩の麓に建つ中之岳神社本殿

中之岳神社


 


草津温泉・湯畑(ここで湯の温度を下げる)

草 津 温 泉

中之岳の駐車場で再び家族会議で草津温泉に行くことに決め、軽井沢を経由して草津温泉へ向かうことに。大滝乃湯で2時間も草津のお湯を楽しみ、濛々と湯気が上がる湯川沿いに草津の温泉街を一時間ほどそぞろ歩き(まだ歩くか!?)。温泉まんじゅうをかじりつつ、湯畑を見学して草津の町を満喫した僕らだった。

夜は道の駅・草津茶屋運動公園でP泊。今夜も氷点下の夜...FFヒーターでヌクヌク快適なダッちゃんで早めにスヤスヤ。


もうもうと湯煙が上がる草津温泉・湯川

湯畑にて

女性陣が御買い物の愛だに光泉寺へ

温泉まんじゅうでゴキゲン


鬼押出し&軽井沢


鬼押出し

昨夜は無事に妙義山縦走から生還できたお祝いにビールを飲んだせいで、朝4時に目が覚めてトイレへ。道の駅の電光掲示板はマイナス2℃を表示している寒い朝だ。ともちゃんと連れションして再びぬくぬくシュラフにもぐり込んだが最後、そのままもう一度深い眠りに落ちて...気が付けば7:30!完全に朝寝坊である。シェードを上げて窓の外を見ると、外は雪...へ?雪??さすがは草津温泉、三重県の真冬並みの気候だ。

朝の身支度を終え、僕らがまず向かったのは「鬼押出し」。以前、僕も社員旅行で立ち寄ったことがある定番観光スポットで、少々俗化してるきらいもあるけど、浅間山の溶岩流がそのままの状態で残っている荒涼とした風景は一見の価値ありなのだ。雪も止んで青空が広がる鬼押出し。残念ながら浅間山の頂上付近は雲に覆われて見えないものの、その雄大な光景はやはり感動モノ。1時間ほど周遊路を散策し、溶岩で出来た鬼のキーホルダーをお土産に買って鬼押出しを後にする。


浅間山の雄大な姿

影絵遊び

溶岩流の凄さを実感

軽井沢のアウトレットモ−ルでお買い物

次なる目的地は...軽井沢。僕ら関西人にとって“か・る・い・ざ・わ”という言葉の響きは、ちょっと特別なモノがあって(笑)、Azuなんかはもう軽井沢といえば『花より男子』の道明寺みたいな超セレブしか居ないと思い込んでる(笑)。

実は昨夜、草津に向かう道すがら軽井沢を通った際に「軽井沢プリンスショッピングプラザ」の前を通ったんだけど、冗談で『明日はココをトレッキングしようか?』なんてうっかり口を滑らせたばかりに...ホントに行くことになっちゃったのだ(涙)。
(*たぶんMasaが猛反対してくれると思ってたんだけど、彼があっさり『いいね、それ。オレも行きたい。』なんて言い出したし...)


北軽井沢の森

11時前に広大なショッピングモールに到着し、それから5時間半ランチ以外は一度も座ることなく全てのショップを巡ることに!(トホホ)ともちゃんは“してやったり!”な表情でショップの品物におメメがキラキラ、Azuはモールで出会う人が全員セレブだと信じているので行き交う女性たちのファッションをジロジロ、Masaは数年ぶりにユニクロ以外の服を買ってもらえるとあってウハウハ...で、僕は昨日の妙義山よりハードなトレッキングにヘロヘロ(涙)。こんなことならカヌーを積んできて無理矢理大井川に行くんだったぁ〜...ってのは後の祭り。
名残惜しそうに何度も振り返る家族を“腰が痛い”などと仮病を使って説得し、16:30過ぎに何とかダッちゃんに戻り、夕暮れの軽井沢を後にする。自宅まで400kmオーバーだというのに、この時刻にこんな風に軽井沢とかにいて大丈夫か??


千古温泉

薪ストーブ前で休憩
 

『オレさぁ、ちょっと寄りたい場所があるんだけど。』
“温泉オタク”Masaがまたまた秘湯行きを提案。せっかく乗った上信越道を菅平で下りて、真田町の一軒宿・千古温泉へ。真田と言えば真田幸村&真田十勇士ってことで、ここは十勇士の一人霧隠才蔵(きりがくれさいぞう)の隠し湯と言われている。温泉の玄関に立つだけで昨夜の草津と同じ香ばしい硫黄の匂いが漂う千古温泉。お湯はもちろんとても鄙びた感じが素晴らしい。

千古温泉でショッピングの疲れを癒した後は、再び上信越道.菅平から、更埴JCを経て長野道〜中央道〜名神〜東名阪〜伊勢道を南下し、22:00ちょっと前にちーちょとうりの待つ自宅へと帰ることが出来た。

=後日談=
前日の天気予報では大井川は2日間とも晴れの予報だったけど、実際には土曜日が雨、日曜日は曇りで風の強い寒い日だったみたい。逆に妙義山はあのグッドコンデョションだったけど、僕らが軽井沢に向かって出発した6時間後に草津は積雪が始まったそうで...(*まだスタッドレス履いてないので非常にヤバい)
実にラッキーな二日間だったようで...

 

November.2007 MENU

アンケートにお答えください!

 

_  _  _