ところが、カヌーを始めるとそんな考えは一変する。
例えそれがいつも見慣れた宮川であっても、川面から見上げる風景はそれまでに見たことがない新鮮なもので、飛行機に乗って何千マイルも移動するよりもカヌーに乗って10km漕ぐ方が刺激的で充実した旅を味わえることに気づく。結局のところ、旅の楽しみは非日常に身を置くことであって、遠くへ行くことではないことを悟った僕は遠くよりも近くの非日常を探し始めることになる。
車でなら1時間もあれば充分な距離もカヌーや徒歩なら一日楽しめるし、それでいて車からでは感じることが出来ない非日常を存分に味わうことが出来る。そんな風に考えると自分の住む三重県が実に魅力ある場所であること、たった数時間のショートトリップですら、つかの間の非日常を味わえる場所はいくらでもあることに気づかされるのだ。
そんな意味で今回訪れた神島も、ほんの数時間で気軽に非日常を存分に味わえる素晴しい場所のひとつ。
聞くところによれば、三島由紀夫は『潮騒』を執筆するにあたって、彼が前年に旅したギリシャ・エーゲ海に浮かぶ島に近いイメージの孤島を探すうちこの神島を見つけたのだそうだ。小説『潮騒』が古代ギリシャの恋愛小説『ダフニスとクロエ』(エーゲ海に浮かぶレスボス島を舞台に、少年と少女に芽生えた純真な恋とその成就が描かれている)をモチーフにしていることからも、三島がこの島にエーゲ海の雰囲気を感じたのは確かなのだけど、果たして彼はこの島のどこにエーゲ海を感じたのか?気候?坂道と階段だらけの家並み?人懐っこい人々?灯台に向けて伸びる山道からの風景?太陽の神を祀る島の祭「ゲーター祭」が太陽神アポロンに通じるから?...そんな様々なことを推理していると、島の監的哨の廃虚がアテネの神殿と重なって見えてくるから不思議だ。
ま、とにかく、三島がエーゲ海を感じた島に日帰り出来てしまう幸せ...僕は改めて日本に、そして三重県に生まれ住むことが出来ている自分に感謝し、さらなるDiscover
JAPAN、Discover MIEを誓うのである。
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