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  10月6-9日 四国グランドキャラバン

  


紅葉に彩られた石鎚山の主峰・天狗岳(1982m)

 

10/8 石鎚山登山

今日はMasaとともちゃんの憧れの山、紅葉の石鎚山(1982m)へ。今回の旅のメインイベントである。
西日本最高峰だけに、10月上旬の今頃に西日本で最も早く紅葉を迎える。実際に石鎚山が現実的になったのは東北キャラバンから戻った8月からのことだけど、漫然と行けたらいいね!って話題に上り始めたのは、我が家の野遊びの師匠・まきまきさんが剣山に登られた直後だから、かれこれ一年前になる。
西日本最高峰、信仰の山、長く険しい鎖場、美しい紅葉、そしてロープウェイで行ける“なんちゃってなところ...三重県から少し遠いことを除けば、我が家にぴったりなお山なのである。しかも、9月になって書店に並び始めた登山関連の雑誌はほとんどが石鎚山特集だし、NHKの「日本の名峰」って番組でもその美しい紅葉が取り上げられてたし...行くしかない!そんな感じだ(笑)。


石鎚山SAから見上げる中秋の名月CLICK

寝坊したけど始発のロープウェイに乗れた!

ロープウェイ運行開始に合わせて5:30起床のはずが、誰かが起こしてくれるだろうという甘えがあって、結局誰もおきられず(涙)。『ああっ、六時半だぁ!』というMasaの絶叫で石鎚山SAで目を覚ます。でも急げば5分で出発できるのがダッちゃんP泊の良いところ(笑)。慌てて着替えを済ませ、SAを後にして途中のコンビニで朝食を買って食べながら石鎚山温泉にあるロープウェイ乗り場・下谷駅へ。
日本百名山、しかもバリバリの紅葉シーズンの石鎚山ということでとても混雑しているのを想像してたけど、石鎚山はここからロープウェイを使って登る西之川コース(表参道)と石鎚山スカイラインの終点・土小屋からの土小屋コース(裏参道)の2本のルートがあり、スタートの標高が200m近く高く距離も短いこともあって土小屋コースの方が断然人気が高いからか下谷駅周辺は僕らが一番乗りのような感じで閑散とした印象。石鎚山温泉の駐車場で手早く準備を済ませて何とか7:30の始発に間に合うことが出来た。


標高1300mから登山開始

霧の中に浮かび上がる巨人?

下谷駅を出たロープウェイは36度という日本一の急傾斜で、まるでエレベーターに乗っているような感覚で高度差900mを稼ぐ。紅葉等高線はまだ山麓まで下りて来ていないので、ロープウェイからの眺めはイマイチだけど、急斜面を這うように設置されているのでさほど高度感はなく僕らのような高所恐怖症には有難い。
約7分の空中散歩で標高1300mの山上駅・山頂成就駅に到着。晴天だった山麓とは打って変わって霧に包まれた山上駅はこれから険しい山に登るんだ!という気分をさらに高めてくれる。石鎚山は標高1982mと2000m近い山だけど、土小屋コースと比較すると厳しいとはいえ、ここから山頂まで標高差700m足らずと実にラクチンなお山。装備の最終チェックを済ませ、緩やかで幅の広い林道を山頂に向けスタートする。


霧の中に溶けるように消えゆくMasa

スタートから数分、山上公園のような広々とした道を進むと正面に奥前神寺(四国霊場64番札所奥の院)に着く。ここでお参りを済ませ、道標に従って左に進むと、そこからは深いブナの森へと入る。先頭をゆくMasaの姿が乳白色の霧に溶けるように消えたり、ぼんやりと現われたり...深い霧に包まれた登山道はほの暗く、実に信仰の山らしい雰囲気がいい感じ。 ただ、ここは登山客だけではなく、この先にある成就社(石鎚神社中宮)ヘの参詣者のための参道でもあるので、あくまでもフラットで所々に外灯が設けられていて登山道という感じはしない。約30分で大鳥居が霧の中に浮かび上がる。成就社(1450m)に到着だ。


石鎚神社成就社に到着

登山の無事を祈ってお詣り

成就社は表参道のベースキャンプのような場所で、旅館や土産物屋が数多く立ち並んでいる。あまりひと気のない境内を進み、まずは本殿に参拝し、石鎚山の開祖・役の行者が初登頂を“成就”し、お山を振り返ったという遥拝殿から石鎚山を眺めようと思ったけど、視界は50m以下。残念ながら白一色で何も見えず、神門をくぐっていよいよ古来から神域とされる森へと進む。
神門をくぐるとそこはもういきなり手付かずのブナの原生林。様々な方向に伸びた曲がりくねった幹を持つ木々が僕らを迎えてくれる。霧が濃いこともあって、進行方向に人影がいくつもあるように見えたりするけど、近づいてみると倒木や立ち枯れの木だったりして、まるで雲を何かのカタチに喩えるような楽しさがある。


登山口からはさらに霧が深くなる

人かと思ったら倒木だったりする

緩やかな下りが続く八丁坂を鞍部の八丁休憩所まで約1kmをダラダラと下り、ここから若干急な道を登る。途中から木製階段を含む極めて急なジグザグ道。体力的には結構辛いものがあるけど、登山道の両側の素晴らしいブナの森・前社ヶ森がそんな辛さを忘れさせてくれる美しさを見せる。
八丁から500mほどで「試しの鎖」に到着。もちろん左側からの巻き道(迂回路)もあり...というか、そちらが最短距離で「試しの鎖」は遠回りとなるわけだけど、この鎖場挑戦も今回の石鎚山登山の大切な楽しみのひとつ。家族全員やる気満々!鼻息を荒くして鎖に取り付く。


「試しの鎖(74m)」ここで恐怖を感じた
人は以降の鎖場は迂回した方が良い

上:恐怖どころか『たっのし〜!』と大笑い
下:中間点から見下ろすとそれなりの高度感!

ロープウェイでいただいたパンフレットによれば、この鎖場の全長は74m。ほとんど垂直な崖なので高度差もそれに近い高さがあるはずで、その名の通りここから山頂までにある3ヶ所の鎖場を登ることが可能かどうかを試す目的で設けられているのだそうだ。つまりここで恐怖を感じたら次からは巻き道を迂回しなさいよってこと。Azuが2歳の時に登ったウルル(=エアーズロック)では逆にスタートの麓から数十メ−トルは鎖がない“Chicken Rock”と呼ばれる部分があって、ここを登れなかった人はそれより上で立ち往生してレンジャーに救出される確率が高いので、悪いけど登るのはヤメテねってことだったんだけど、手法は逆だけど発想が似てるなぁなどと思いつつ、鎖の一番下に垂れ下がった大きな鉄のリングに手を掛ける。


前社ヶ森小屋から「試しの鎖」を見上げる
こんなのを子連れで登り下りしたのか!

上:鎖場の途中で見つけた脱力系のキノコ(笑)
下:岩陰に美しいリンドウも咲いていた

ルートファインダーのMasaを先頭に、MamaとAzuをはさみ、そして万一の落下の際に何らかの手立てが打てるように(たぶん、無理だけど)、僕が最後尾で登る。NHK「日本の名峰」を観て想像してたよりも、急勾配な崖には2本の鎖...鎖といっても良くある一コマづつが小さく細いものではなく、直径10mm程度もあるかなり丈夫な鉄棒のようなもので、手が入るほどの大きなつなぎ目があってホールドはかなり確実で体重を預けても不安がない感じ。ただ74mと言えば24〜25階建てのビルの屋上とほぼ同じ高さなわけで、そこを自分の手足だけで鎖を頼りに登っていくのは、それなりに恐怖感があるもの。たぶん我が家のメンバーは技術的&体力的に登れない者はいないとは思うけど、恐怖感に駆られてフリーズしてしまわないかが正直心配。ところが、Azuの顔を覗き込むと、お目々キラキラで満面の笑み!『たっのしぃ〜!』意外と強い子なのね(笑)

絶壁の途中には、どう見ても女性の●●にしか見えない脱力系のキノコが生えてたり、普段見るものより少し淡い色合いのリンドウがひっそりと咲いてたり、人の往来が多い登山道では見られないものが次々と現われて、しかも絶壁にへばりついてるもんだから鼻先10cmの至近距離で、ふと自分が鎖場を登ってる最中であることを忘れてしまいそうになる。何とか無事に試しの鎖を登り切って、岩の頂上に到着。ホッとしたのもつかの間、登ったら下りる必要があるわけで、ここからの下りの鎖場が困難を極める! 実際にやってみると解ると思うけど、上りは次に足を掛けるべきスタンス(足場)をこの目で確かめることが出来るけど、これほどの角度になると下りは全く視認することが出来ない...要するに手探り、じゃなく足探りなんだもん(涙)。


夜明かし峠で急に霧が晴れ、錦色の山塊が姿を現す

 

シャレにならない怖さを我慢して急峻な岩場を下りると、そこは前社ヶ森小屋。山頂までのほぼ中間点である。ここから美しい森が続く剣山の小ピークを越えると夜明かし峠の鞍部へと到着する。ここで急に強い風が吹き、目の前の霧がすごいスピードで流れ始めたと思ったら、さっきまでの白一色がウソのように青空が覘き始め、唐突に眼前に錦色の紅葉を纏った山塊が姿を現す。鞍部をゆく誰もが思わず立ち止まってハ−ともフ−とも聞こえるため息をつく瞬間だ。
鞍部から少し上ると「一ノ鎖」(33m)の登り口が現れる。これまでに目にした数々の山のガイドブックには「鎖場を避けて巻き道を行く方が無難だ。」「鎖場に限って言えば日本一危険なコースだ。」なんて書かれていることもあってか、僕の印象では「試しの鎖」にチャレンジしたのは表参道からの登山者の約1/3程度。で、「試しの鎖」で懲りた人が多かったのか「一ノ鎖」へと進む人はそのまた半分以下って感じ。つまり全体の10人に1〜2人しか挑戦しないので、「一ノ鎖」はかなり空いていて、我が家が登っている時には先行者も後続もなく我が家の貸切り状態なのが嬉しい(もらい事故の可能性がないので)。


一の鎖(33m)かなり滑りやすい
Azuは敢えて鎖を使わずに登ってるし!

上:一の鎖から見上げる紅葉
下:また深い霧に包まれる登山道

「一ノ鎖」の印象は確かに急峻だけど、傾斜よりも岩の表面を水が流れ非常に滑りやすいってことが危険な感じ。でも、見上げると赤や黄色の燃えるような紅葉が美しく、素晴らしい岩登りを楽しめる。「試しの鎖」を一番楽しんでいたように見えたAzuはここでも才能を発揮。岩のちょっとし出っぱりをホールド&スタンスにして何と鎖をほとんど使うことなく登って行く。でも確実な三点確保を励行していて下から見上げている者に危険な印象を与えることはない。『す、すんげぇ!』我が娘ながらアッパレ!
無事、「一ノ鎖」を登り切ったところで、左側から土小屋コース(裏参道)からの登山客が合流すると、一気にお山は賑やかな雰囲気になる。どうやら“クラブツーリズム”などの団体客はバスでやって来ることもあってか、ほとんどがこの土小屋コースを利用するようである。でも両方のコースの登山客が入り交じるにもかかわらず、どっちから来たかが、その服装や特にトレッキングシューズのブランドや年季の入り方でハッキリと区別出来るのが可笑しい。


鞍部でニの鎖、三の鎖の全貌が明らかに!も、もしかしてアレに登るの!

さきほどの「一ノ鎖」前と良く似たコルを大勢でゾロゾロと進むと、これまたさっきと同じようなタイミングで正面の霧が晴れ、今度は正真正銘のピーク・弥山山頂が姿を現す。登山客が増えたぶん、あちこちで黄色い歓声が上がるけど、僕らが目にしたのは、ほとんど垂直に続く「ニノ鎖」と「三ノ鎖」のオッソロシイ光景。間もなくニノ鎖小屋に到着。
僕の予想通り、「ニノ鎖」(65m)の登り口の鳥居付近は大渋滞である。その渋滞の原因は、鎖場を見上げるとすぐに解る。僕らと同じ表参道から来た人は、自分の体力や技術に応じて大半(...というかほとんど)が皇太子殿下が登られた際に架け替えられた“昭和新道”と呼ばれる巻き道へと迂回して行くけれど、裏参道からの登山客はここが初めての鎖場ってこともあってほぼ全員「ニノ鎖」にチャレンジしているのだ!


ニの鎖(65m)は鎖場初体験の土小屋
ルートからの登山客が加わって大渋滞

上:ルートファインダーのMasaが先頭
下:三の鎖直下で霧の中から天狗岳が姿を現す

登る人の数が多い上に、難易度が判らないままに登り始めるもんだから、多くの人が途中でフリーズ。下から見てても真っ青な顔をして手足がガタガタ震えているのが判るほどだ。並行して右側に下り専用の鎖もあるけど、さっきも書いたけど鎖場は上るより下りる方が怖いので、凍りついてる人が下るのはまず無理。結局、阪神高速並みの大渋滞で鎖の途中で宙吊りの変な姿勢のまま10分も15分も待たされて、手がかじかんで困った。
たぶん今後転落事故が起きるとしたら、このニノ鎖だろうな...そんな意味で石鎚山で最もデインジャラスな場所はここである。

大変な思いをしてニノ鎖をクリアすると、すぐに「三ノ鎖」(68m)へと進む。麓に立って見上げる三ノ鎖は、もう笑っちゃうほどクリフハンガーな世界(笑)。でもさっきで懲りたのか、「三ノ鎖」にチャレンジする人は数えるほどで(笑)、そのとんでもない斜度と滝のように流れる水に注意すれば大丈夫そうな予感がする。


最も険しく危険な「三の鎖」(68m)

「クリフハンガー」の世界です(涙)

ほとんどの人が迂回してた

ところが野遊びの世界で予感ってのはいつも外れるもの(涙)。溝のように加工された岩盤に垂れ下がった鎖をよじ登り半ばまで到達した時、何と岩盤にスタンスが全くないことに気付く。ヤバいじゃん、これ!そう思ったら急に高所恐怖症ならではの気が遠くなるよな恐怖感と、さっき「ニノ鎖」の渋滞で長時間力を込めていた上腕部の疲労感がムクムクと湧き上がり、恥ずかしながら足が震える。でも、石鎚の神様はそんなことはお見通し(笑)。鎖にスタンスの代わりになる三角形のループが設けられていて、全身が岩から離れてブラブラグラグラ揺れる気持ち悪ささえ我慢すれば、安全に登ることが出来る。


無事登り切ったところで深いため息をフー!でもため息を吐くのはそれだけではなかった。『な、何じゃコリャ!』「三ノ鎖」を登り切ったところが実は弥山の山頂なんだけども、最後の一歩を登り岩から顔を出した僕が見たものは...祇園祭の四条河原町ばりの大混雑なのだった(涙)。見てはいけないものを見てしまった気がして、そのまま「三ノ鎖」を降下しようかとも思ったけど、後続もあってそんなワケにもいかず...いきなり人ごみの中に放り出される僕ら。戸惑いながらの弥山登頂である。


弥山登頂!

岩棚に腰掛けてラーメンランチ

初詣の伊勢神宮を遥かに凌ぐ押し合いへし合いの中、まずは石鎚神社頂上社にお参りを済ませ、逃げるように山頂をニノ森方面へと下る。女性が細かく揺れながら数十mも列をなすトイレを通り過ぎたところで登山道の下に岩棚を発見、そこに下りてようやくザックを下ろし、やっとのことで座ることが出来た。PRIMUSをザックから取り出し鍋を架けてラーメンランチ。暖かな食事にありついて、ちょっと一息な瞬間。
30分ほどをここで過ごした後、僕らは再び山頂へと戻り、人の切れ目を狙って山頂の眺望プレート前で記念撮影...をしていると、山頂広場の何百人という群集に地鳴りのようなどよめきが起きる。

霧に包まれていた天狗岳が徐々に現れると、山頂の登山客からどよめきが起きる

皆が一斉に立ち上がり同じ方向を見つめる。な、何なんだ!?人々が指差す方向を見ると、真っ白な深い霧の向こうに浮かび上がる三角形の“何か”。ゆっくりと晴れてゆく霧...徐々に現れる黒い影...『見えた!』誰かの一声でどよめきが歓声に変わる。惚けたようにただ立ち尽くす者、口笛を吹く者、万歳三唱する者、拍手する者、仲間とハイタッチする者...それぞれがそれぞれのやり方で感動と喜びを表現している中、モノクロの山塊に天空から太陽の光が伸び、僕らの目の前に燃えるような紅葉を身に纏った石鎚山主峰・天狗岳が出現する!何とドラマティックな登場だろう!その瞬間、僕とMasaは顔を見合わせてニヤリと笑い、呟く。
『よし、行こか。』『行こ。』


そして、ついに完全に姿を現した主峰・天狗岳!CLICK
(クリックすると写真が必ずしも真実を写すものではないことが判ります...爆笑)

天狗岳の稜線に見える人のオレンジ色のアノラックが風に大きくはためき、強風で体勢を崩す場面もあったりしたので、体重の軽いAzuとMamaは弥山山頂に残り、大事をとってアタック隊は体重の重い順に選抜(笑)...僕とMasaのふたりである。(女性陣は鎖のない岩稜歩きに不安げだったし)
弥山山頂からいきなりの鎖に体を預け、幅が1mもない痩せた尾根を下る。四国笹に隠された地面は驚くほど凸凹で、縦横無尽に伸びた木の根に足を捕られないように細心の注意を払いながら進む(ここでの転倒は即、転落→死亡を意味するので。)そんな険しい登山ルートだけど、真っ赤に色付いた紅葉はあくまで圧倒されるほどに美しく、地獄と天国の両方を体験できる希有な場所だってのが僕の印象だ。


幅が1mもない痩せた尾根

天狗岳アタック隊はMasaと僕

特に天狗岳に向かって左側は我が国でも第一級の断崖絶壁。何かでスパッと断ち切ったような、まるでナイフの刃を上向きに立てたような形状になっている。“馬の背”とか “象の背”とかいう名前の岩稜はあちこちにあるけど、ここは言うならば“ゴジラの背”...岩稜を辿る道の両側を紅葉の低木が覆っているからまだ歩けるけど、もしも木々がない岩丸出しだったら、まともな神経の持ち主なら絶対に二足歩行は無理!そんな岩場である。
それなのに、嗚呼それなのに!(笑)


美しい笹の斜面をトラバース

断崖に到着し怖々覗くMasa(向こうに天狗岳ピーク)

Masaは平気で岩のてっぺんに登って断崖の縁から上半身を乗り出すように下界を眺め始める。
『ヤメレ!危ないけん!そこはヤバイっちゃ!』
思わず何故か九州弁で止めに入る僕。でもMasaが『凄いぜ!成就社からの登山道が全部見えるし!』などと歓声を上げると、どれどれ...ハシゴの二段目で足が震える極度の高所恐怖症な僕も一緒に身を乗り出して眺望を楽しむ。でもこれをやっちゃうと度胸が付くというかヤケクソになるっていうか、それまでの恐怖感も消え去って、天狗岳頂上に向けて二本足でスタスタと岩を登ることが出来る。


天狗岳(1982m)登頂!

小さな御影石製の祠が見えると、そこが天狗岳山頂(1982m)。山頂に居合わせた人たちとお互いの健闘と無事を称えあいながら写真の撮りっこ(やはりみんな妙にハイになっててすぐに親しくなれる...笑)。さすがに主峰、雲が晴れた瞬間の眺望は他に類を見ない素晴らしさで、近くは成就社から続く尾根道、遠くは瀬戸内海に浮かぶ島々までが一望である。『いいなぁ〜!やっぱりここまで来てヨカッタね!』Masaの言葉に深く頷きながら山麓で湧き上り猛烈なスピードで左から右へと流れる雲に隠されつつある遠景を惜しみつつ下山を開始しようとすると、『わわっ!アレは!』


写真撮影の後は怖くて岩にしがみつく

成就社からの登山ルートを一望

僕の前を流れる白い雲に鮮やかなリング状の虹が二重に架かって、その中心に向かって金色の光の筋が伸びる。そしてその筋の頂点には、ずんぐりとした人影!おおっブロッケン伯爵!ご無沙汰でございます!(笑)
去年の夏、御在所岳で見た水銀灯のブロッケン現象以来の体験である。
よく見ると同じ姿勢で大人のブロッケンと子供のブロッケンの2人が現れている。山頂には僕とMasa以外に数人が立っているけど、ご存知のようにブロッケンはただの影とは違い、光の屈折によって出来る現象なので、自分にしか見えないはず。僕が手を上げると二人のブロッケンさんも同じ動きをするので、僕の背中にある太陽が雲か何かで光源がふたつに別れているために“ダブルブロッケン”が起きているのか?いずれにせよ、とても珍しい体験じゃないかと思う。


ああっ!ブロッケン現象が!(しかも光の屈折で珍しいダブルブロッケン!)

ただ、この現象、前方に白い雲のスクリーンがあって後方の雲が切れて陽射しが漏れているという両方のタイミングが合わないと現われないので、今日のようにすざまじいスピードで雲が流れている気象条件では、長くて数十秒しか続かない。そんなわけで一番のハッキリくっきりブロッケンは写真に収めることが出来なかったのが返す返すも残念無念である。

 

*1ブロッケン現象
ドイツのブロッケン(Brocken)山頂でよく見られることからこの名称がついた。太陽を背にして立ったとき、自分の影が前方の雲や霧に巨大に映り、その周囲に虹色の光輪が見える現象で、別名・ブロッケンの妖怪とも呼ばれる。
大気中の水蒸気などの粒子によって体の近くを通過した太陽光が回折して生じるが、体の近くの粒子の大きさが光の波長に近い場合のみMie散乱(ミー散乱)と呼ばれる現象が起き、その結果ブロッケン現象が見られる。
ちなみにただの影との違いは、影はそばにいる人誰もが視認出来るのに対し、ブロッケン現象は自分にしか見えない(これホント)。これが実に不思議なのだ。結構見られる条件が限られるので、たった一年の間に夜と昼二回も体験できるのは、かなり稀なんではないかと思う。ブロッケン現象について詳しくは
こちら...


山頂直下の断崖の縁に立つMasa。シャレにならんぞ!

反対側も落ちると100%死ねます。

山頂からの素晴らしい絶景と燃え上がるような紅葉、そしてブロッケン現象を体験した僕らは心からの満足を胸に下山を開始する。高度感が完全に麻痺している僕らは、まるで商店街の歩道でも歩くような感覚で“ゴジラの背”を進む。一たび躓けば、41年の生涯(Masaは14年の生涯)に終止符を打つことになるというのに...慣れというのは偉大で怖いものだなぁと実感する瞬間だ。


充実感&達成感で笑顔のMasa

立ち枯れの白と紅葉のコントラストが素晴らしい

そんな危険な岩場を鞍部まで下ってくると濃霧に覆われて白一色だった往路では見ることが出来なかった弥山の全貌が明らかになる。石鎚山といえば、弥山から見た天狗岳の写真ばかりが使われるけれど、天狗岳から見た弥山もなかなかどうして天を突くように聳えるバベルの塔にも似た姿の良いお山である。
真っ白な立ち枯れの木々と紅葉のコントラストを楽しみつつ弥山に戻った僕らは、待ちくたびれて不満タラタラの女性陣と合流して休む間もなく下山を開始する。『何が往復20分よっ!1時間も待たせて何してたの?霧で天狗岳は見えないし...心配したじゃないの。』へぇ、心配してくれるんだ(笑)。


何気なく歩いてるけど、両側は高さ数百mの切り立った岩稜


左側は50mの断崖。どう考えても、この手摺は
取付け位置が間違っていると思うんだけど(笑)

上:弥山に戻って下山開始
下:今季初めての白い息!

一ノ鎖を過ぎ、賑やかな裏参道の登山客が土小屋方面へと去ると、登山道は一気に静かな落ち着いた雰囲気を取り戻す。まだ15:00前だというのに、徐々に気温が下がってきてフリースが丁度快適な寒さで、Masaの吐く息が白く輝く。
前社ヶ森小屋から試しの鎖場を巻いて前社ヶ森に入ると、それまでの赤や黄色の秋の装いが一変し、緑の氾濫へと変わる。美しいブナの木々を愛でるように眺めながら木製階段を一段一段下りて八丁へ。ここから緩やかな上り坂を自分のペースで上る。


紅葉とモミの木の緑のコントラスト

往路は鎖場をオールクリアしたけど、復路は歩きやすい昭和新道をゆく。随所に鉄橋が架けられて実に快適な遊歩道である(但し手摺の取り付け位置が変で左側通行の場合は結構危ない)。上りはスリル満点で楽しかった反面、景色を見る余裕すらなかったけど、下りは流れる雲間に見える目にも鮮やかな紅葉を楽しみながら、お喋りを楽しみながらのお気楽トレッキングの雰囲気だ。


味わいのある木が点在する。無数のコブが
この木が生きた長い時間を物語っているようだ

上:美しい森ブナの原生林をゆく
下:八丁への鞍部をゆく

ちょっと疲れたなぁ...足が重くなり始めたところで眼前に神門。何だか救われたような気分で成就社で石鎚山登山の成就を報告し、賑わう旅館通りを進んで、一軒の茶店に入って復路で初めての休憩をとることにする。
お店の真ん中にあるブルーフレームストーブに載せられたヤカンが盛んに白い湯気を吹いていて、もうゴールしたような気になっていた僕らに、ここがまだ1500m近い高所であることを再認識させてくれる。ザックには10杯ぶんのコーヒーと3リッターの水が残っているけど、何故か茶店でコーヒーを注文。子供たちを土産物屋に解き放って(笑)、夫婦でのんびりと香り高い淹れたてのコーヒーを味わう。


Kinoko、キノコ、茸!
エグイようなユーモラスなような...

上:成就社の門に到着
下:成就社からは緩やかな林道をゆく

Masaはショーウインドウに並ぶ法螺貝をかぶり付きで物欲しそうに眺めてたけど、小型の高音モデルで¥30000、重低音モデルは¥70000と中学生の小遣いで買える金額ではないので、ひとりで奥駈道踏破に出発する時に吉野で買ってやる約束をして、今日のところは諦めさせる(笑)。こうして石鎚山登山を無事に終えた僕らは、成就社からの緩やかな林道をブラブラと歩いてロープウェイ乗り場へと進み、待ち時間ゼロですぐにやってきたロープウェイに乗り込んで山麓のダッちゃんへと戻ったのだった。


ロープウェイは待ち時間ゼロ!

山麓のダッちゃんが見えてる!

 



道後温泉・本館前にて

ダッちゃんで靴を履き替えた僕らは、早くも暗くなり始めた石鎚山温泉を後にして次なる目的地へと行動開始...ってどこへ行くの?(涙)後部座席では、今夜の温泉をどこにするか?MasaとMamaが大喧嘩中。ボケ!カス!ナメトンカ!などとてもお上品な我が家には似つかわしくない言葉が飛び交い、結局最終決定は道後温泉。掛け流し&「非」単純泉を譲らないMasaも道後温泉本館の「重要文化財」という言葉に惹かれた模様(笑)。


あっ、可愛いイノシシのぬいぐるみ!

魔法で取り出したんじゃなく買ってもらいました。

四国山地の中腹を通る松山自動車道からの素晴らしい瀬戸内の夜景を満喫しながら松山入りし、道後の温泉街へ。四国最大の温泉場だけに浴衣姿の人々を轢かないように気を付けながら、道後温泉本館の隣にある公共駐車場にダッちゃんを停める。温泉セットのトートバッグを手に本館前に行くと、大混雑でスムーズに温泉には入れそうもないので、、記念写真だけ撮って先に賑やかな温泉街散策を楽しむことにする。本館から続くアーケード街は楽しいお店が多く立ち並び、何となく夜店を歩いているようなワクワク感がある。途中の鉄板焼きのお店に入って夕食を食べた後、Azuを釘付けにしたウリ坊のぬいぐるみを頑張ったご褒美に買ってあげて、超混雑してる本館を止めて椿湯につかり、最後はいよかんソフトで道後温泉を〆る(笑)。


混雑はイヤなので椿湯へ

そして最後はいよかんソフトで締めくくり

今夜のお宿は松山道・伊予灘PA。駐車スペースの両側には1台ごとに立ち木があしらわれ、孫太郎キャンプ場よりもずっとキャンプ場らしい素晴らしいPA(しかも、ゴミひとつ落ちてない!)。PAの建物には清潔な椅子とテーブルが用意され、空調も効いて最高!早々に寝てしまった家族をダッちゃんに残し、僕はこの“マイ書斎”でそばにある自販機でつまみを買って缶ビールを飲みながらiBookを開いて寛ぎの時間を楽しむのだった。

 

 

 
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