これで水質ランク上位の川が水質が良いかという理由が判ったのですが、その中で大分県の大野川だけはどうしても理由が分りませんでした。大野川は流域人口も宮川に次いで多く、雪解け水が入らないので水温は年間を通して高く、また下水道の普及率も宮川と大きな差はありません。その上、瀬戸内海気候の影響で、年間降雨量も決して多くないので、川がきれいに保たれる条件はあまりないのです。僕は大野川を見たことがなく、これ以上仮説を立てるのは無理ということで困っていたところ、夏休みに大野川とその源流である阿蘇地方を訪れる機会があり、実際にこの目で見てきました。

【大野川と宮川を比べてみる】

大野川は毎年水質ランクの上位というわけではありまませんが、それでも過去4年間で2回も名前が載っている川なので、きっと宮川など他の川にない理由が何かあるに違いないと考えました。
地図で確認してまず気付いたのは、大野川も宮川と同じように南西の山から北東の海に向って流れる川だということです。でも、地図だけではそのぐらいしかわからないので、実際に大分に行って大野川を見て調べることにしました。祖父の実家は大野川が流れる大分市のそばですからお盆に帰省した時に大野川を見ることができるたのです。
大野川は祖父の実家の目の前を流れる大分川の隣の川で、祖父の兄弟は川で泳いだり鮎を釣ったり網で捕まえたり僕の父と同じような川遊びをするそうです。実際に見た大野川は予想通り、とても宮川に似た川で確かに水がきれいでした。河原の石を観察して、後で「川原の石ころ図鑑」(渡辺一夫著 ポプラ社)で調べてみると、源流が大分の実家の後に遊びに行った阿蘇外輪山なので火成岩の黒色片岩、安山岩、溶結凝灰岩、花崗斑岩や堆積岩の火山れき凝灰岩、石灰岩、チャート、れき岩が多く見られ、宮川の石とはかなり種類が違う印象を持ちましたが、川の周囲の雰囲気は本当に宮川そっくりで、ここをカヌーで下ったら宮川と錯覚してしまう感じがしました。でも大野川で宮川と同じ「川がきれいな条件」をはっきりと見つけることは出来ませんでした。

阿蘇外輪山の湧水

ただ、祖父の実家に行って大野川を観察したあと、阿蘇に行ったのですが、そこでとても面白い話を聞きました。大野川は大分県の川ですが、その源流は阿蘇外輪山にあって、熊本県竹田市の源流ではボウルのような形の外輪山に降った雨が地底から湧き出ている場所である竹田湧水群と呼ばれる湧水が数多くあるそうです(1985に「日本名水百選」に選定されました)。中でも小野鳴滝湧水は幅7〜8mにわたって幾筋もの水を噴き出していて、大野川の源流部は地下水が豊富なことが判ります。(日本一の湧出量を誇る別府温泉も阿蘇カルデラの水であると聞きました。)もし、大野川の流域面積には含まれていない380km2もある広大な阿蘇外輪山に降った雨の多くがこの湧水群に集まっているとしたら、実質的には流域面積がかなり広がることになるはずです。本当の理由ははっきりしませんでしたが、大野川の水質が保たれている理由のひとつに阿蘇外輪山からの湧水があげられると思います。

中央構造線

三重県に帰ってからもう一度「川原の石ころ図鑑」を読んでいて、あることに気が付きました。
今年は両親と大峯奥駈道を2回トレッキングしていて、4月の吉野と7月の大峰山脈・八剣山に登った帰り道はいつも高見峠を越えて帰ってきていました。その道沿いの松阪市(旧飯高町)に中央構造線が見られる場所があり、それを思い出して宮川が中央構造線に沿って流れている川であることに気付いたのです。インターネットで中央構造線を調べ、地図上で中央構造線を西へ辿ると、紀ノ川、四国吉野川、そして愛媛の西に細長く伸びる佐田岬半島から豊予海峡を渡って、大野川へと続いていることがわかりました。

つまり阿蘇山や祖母山などの新しい火山のせいで河原で見られる石ころの種類は違うけど、宮川も大野川も中央構造線を流れる川という共通点があったので見間違えるほど風景が似ているのかもしれません。

 


大野川

 

【このページの結論】大野川がきれいな理由

1. 阿蘇外輪山からの湧水
流域の外である阿蘇外輪山に降った雨が湧き出る湧水地帯を水源にしてい実際は流域面積が実際はもっと広大であること。

2. 中央構造線?
原因ははっきりしないけど、中央構造線上の川は水のきれいな川が多いので、何か共通の地質があって川の水をきれいに保つ原因がありそうなこと。