本屋から家へと向かう車窓からはどっしりとした山容の経ヶ峰が見渡せ、その山頂付近には四角い反射板が建っているのが確認できる。
『良い山だったわね、経ヶ峰。またちょっと時間が出来たら登りましょうよ。』としみじみ呟くともちゃん。
少年時代の僕が友だちと焚き火を囲んで野遊びの基本を学んだ経ヶ峰。谷底の河原に座って木々の間から見える狭い星空に浮かぶ月を見上げ、『オレの奥さんになる女の子も、今何処かでこの月を見てるのかもしれないよなぁ。』なんて遠い目をして少し顔を赤らめながら呟いてた(恥)時から30年近くが経つ。
『オレのことを好きになってくれる女の子がもし居るとしたら、絶対、オレ、大事にするんだ。』
まだ恋を知らない少年がまだ顔も知らない女の子を大事にしようって思うなんて、今考えると笑っちゃうけど、でもあの時の純粋な気持ちを忘れちゃいけないなぁ...僕は経ヶ峰の美しい稜線を眺めながらOUTBACKをドライブしつつ、オジサンになった僕がオバサンになったその“女の子”とともにその山を登った後でそんなことを考えていた。
『何考えてるの?』ともちゃんに訊かれてハッと我にかえる僕。『あ、いや、もっと早くこの山に登っておくべきだったなぁって思ってさ。』『そうよねぇ、素敵な山だもんね。』『これからでも遅くないさ、また登ろう。』
今年14回目の“子鬼の居ぬ間に...”な野遊びはこうして終わりを告げたのだった。
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