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FLAME LAYOUT

 

 

 

 

 

 

July.2005 part.2

 

 

 

 

 

 


馬の背にて

 

7月10日 石仏巡りハイキング(石山観音磨崖仏群)

『雨ねぇ...』『雨だねぇ...。』寝室の天窓を激しく打つ雨を眺めながら、僕らはも一度眠りに落ちる。ホントは国府浜へボディボードに行くはずの日曜日。朝からの大雨で何だか気持ちが萎えてしまう僕らだ。結局ゆっくり朝寝を楽しんで、その後も朝刊のクロスワードパズルを楽しんだりしながらグズグズと家で過ごす。ピチピチチャプチャプランランラン♪な雨を楽しむ外遊びもイイけど、窓の外の雨を眺めながら家で過ごす休日も、また愉しいもの...とは言え、ずっと家にいると息が詰りそうになるし、Masaがバースディプレゼントに卓球ラケットのラバーなど諸々を欲しいとのことなので、鈴鹿にある卓球プロショップへお出かけすることに。

『パパとママはクルマで待ってて。』ってことで、Masaは彼にサイドテープをプレゼントするAzuとふたりでお店へ。最近は自分の買い物をする時に僕ら両親が一緒に付いてくることを嫌うようになってきたMasa。ショッピングの能力も大人への大切なステップなので、僕らはOUTBACKで待つことにする。
『俺のラケットはTSPだけど、ホントのお気に入りはNittakuなんだ。バタフライは有名選手を売り物にしててなんかミーハーで嫌いだし...。』へぇ、卓球の世界にもブランドカラーがあるのね?有名選手?オレ、愛ちゃんぐらいしか知らないけども(笑)...彼にナイショで爆笑しつつ(笑)、お目当ての卓球グッズを買った彼をピックアップした後、鈴鹿サーキットそばの大規模スポーツ量販店に場所を移して、彼のロングスリーブのラッシュガードと僕のライクラで出来たトレッキングパンツを買い、小さなイタリアンレストランでランチを楽しむ...野遊び家族らしくない、まるで“普通の家族”のような日曜日(笑)。

ところが!
僕らはやっぱりそんな休日には飽き足らない。空を見上げながら『雨も上がったことだし、どこかちょっと歩こうか?』なんて言い出したら、もう行き先はすぐに決まる。僕ら家族のそれぞれの頭の中には“今度行ってみたい場所”リストが何十ケ所もリストアップされてて、ものの5分で今日の行き先が決まるのだ(笑)。
そんな今日の僕らが選んだのは「石山観音磨崖仏群」を巡るハイキングコース。「石山観音磨崖仏群」通称・石山観音は東名阪道と伊勢道を繋ぐ伊勢関JCの西方にある標高160mほどの小さな岩山で、特に観音寺があるわけではなく、一枚岩である岩山(=石山)をえぐるように彫刻された石仏(磨崖仏群)が付近一帯に点在していて、その中で観音像の比率が高いために“観音”と称される場所である。


参籠堂跡広場・磨崖地蔵立像前をスタート

巨巌をくり抜いて40基以上の仏像が点在する

そんなわけで、僕らは、R1を通って鈴鹿から「石山観音磨崖仏群」の駐車場へ。
整備の行き届いた駐車場にクルマを停め、最小限の荷物を持ってハイキングコースへと進む。お買い物だというのに、ここに来る予感がしたのか、Masaは先日シリウススポーツで買ったモントレール履いてるし、残りの3人はメレルのジャングルモック(岩登りには登山靴よりこっちの方がイイ)だし、何故かレインウェアとThe Butonとファーストエイドキットを入れたPatagoniaの防水ザックもクルマに積んでるし...急遽にしては準備良すぎ?かも(笑)。

駐車場から石段を上ってすぐの広場に立つと(近世まで参籠堂という建物があった場所らしい)、正面に磨崖地蔵菩薩立像(県指定文化財・室町時代作/像高3.2m)と右手の如意輪観音の半跏像(那智観音の模写)に出迎えられる。実は我が家のメンバー全員がここに来るのは初めてなんだけど、目の前にある石仏が想像してたよりも大きくて、ちょっとびっくりなのである。
『け、結構スゴイねぇ〜!』『うん、自然も濃いし...』
さっきまで雨が降ってただけに自然の芳香が濃密で、長い年月を経てもはや自然の一部と化した石仏に圧倒される思いだ。


馬の背を登る

途中にも数多くの石仏がある

空海坐像2体を横目に見ながら階段を上ると正面の巨巌に「磨崖聖観音立像」(県指定文化財・1848年開眼/像高2.5m)が姿を現す。この像はここでは新しい部類で彫刻も真新しいんだけど、彫刻された岩盤の中で顔にあたる部分の“石の目”が悪く、せっかくの顔面が風化しているのが残念だ。知識が乏しい時は黙ってるくせに、得意分野になると専門知識をひけらかして機関銃のように喋りまくる僕...これって典型的な“オタク”の特徴らしいね(涙)。


馬の背を登攀する。スリル満点!(涙)
尾根を外れると確実に...死ねる

上:馬の背の頂点でひと休み
下:実は下りる方が怖かったりする

石仏巡りってのは、僕ら夫婦やMasaには楽しいけれど、Azuはつまんないかも?少し心配してたけど、ここの石仏はただ仏像が並んでいるわけじゃなく、順路を歩くうちに“発見”する感じ。そう、スタンプラリーっぽい楽しさでAzuもノリノリでご機嫌に歩いてゆく(笑)。しかも石仏には番号が振られていて、彫刻されている石仏の脇に後日刻まれた漢数字を読み下して『あった〜!19番!』ってのが楽しいのだ!

7番からは、いよいよ“馬の背”と呼ばれる巨岩の麓に彫刻されたとても味わいのある石仏。まだまだ順路沿いに石仏は続くのだけど、『岩があったら登りたい』僕らは目の前にそびえる“馬の背”の魅力に耐えかねて、順路を逸れて“馬の背”に登ることにする。
この“馬の背”、山頂から南へ延びる一枚岩の稜線のことで、山頂から見ると鞍に跨がった時の馬の姿にも見えることから名付けられたらしいけど、その名の通り高所恐怖症の僕にはホントにヤバいっす(涙)。


Masaの手を借りて下りる(普通は反対向きになるだろ?)

非常に精緻な石仏群

通路にも岩を削ったのみ痕が...

『これ、一番彫りが深いよ!』

でも、ここから誤って転落しても、生き残る確率は数%はありそうで、そういう意味では転落時の死亡確率120%な伊勢山上の蟻の戸渡り大台ケ原の“大蛇ぐら”に比べりゃどうってことない感じ。なんとかAzu以外は登攀&縦走成功!ただ、上りよりも下りが怖くて、全く伸縮性のないジーンズスタイルで“馬の背”にトライするという完全にナメてるMamaはもう少しで立ち往生するところだった。

馬の背を下りて再び巡回コースに戻った僕らは、東屋下を通って馬の背の巨岩を回り込むように22番以降の石仏を探しながら進む。そして33番(=番号が付いた最後の石仏)を見終えた僕らの前に現れたのが、「石山観音磨崖仏群」のハイライトにして最大の石仏「磨崖阿弥陀如来立像」(県指定文化財・鎌倉後期/像高3.5m)だ。


ただのトンボです(笑)

台座を含めると全高5mを超える巨大なこの石仏は、石仏を囲むように彫られた枠=仏龕(ぶつがん)の形状が「釘抜き型」あるいは「壷型」だったり、衣文が直線なことなど、最近アフガンで破壊された“バーミヤンの大仏”と同じタイプであることもあってか、非常に雰囲気が似ていて(*当然ながらアチラは写真でしか見たことがないけど...)、誰からともなく『バーミヤーンに似てるねぇ。』という声が上がる。
『うん、これはニッポンのバーミヤーンだぁ!』
そんな僕ら夫婦とMasaの会話を???な顔で聞いているAzu。
『なになに?意味ワカンな〜い!』『お、オマエ、まさかバ−ミヤーン知らないの?』『うわっ!バカにもほどがある!』『世界遺産のバーミヤンよ。知らないの?』『幼稚園児でも知ってるぜ!』
みんなにバカ扱いされたAzuは半分メソメソしながら呟く。
『バーミヤンぐらい知ってるもん!でも何でこれがバーミヤンなのかワカンないから訊ねてるんじゃないのっ!』
聞けば...Azuはバーミヤン=中華料理のチェーン店のことだと思っていたようで...そ、そりゃ意味ワカンなくて当然だわぁ〜(爆笑)


磨崖阿弥陀仏立像(台座を含めて5m)
まさに“伊勢のバーミヤン”

上:深く彫られているだけに保存状態が素晴らしい
下:聖観音立像はお顔が優しい

京都を中心とした同心円上に方言というカタチで同じ古語や言い回しが残っているのと同じように、もしかしたらインドを中心にして東西に位置するバーミヤーンと石山観音に同じ手法が残っているのかも...(たぶん間違いだろうけど...笑)なんて話をしながら、僕らは石仏よりさらに素晴らしい初夏の雨上がりの森を歩く。
石仏本体が味わい深いのはもちろんのことだけど、そして何より素晴らしいのはここが全く観光地化されていないこと!僕ら以外に人影がない野鳥の声だけが響く広葉樹林の中で静かに石仏の表情を見ることができるのは何よりのことなのである。

 


磨崖地蔵立像

 

暫し「磨崖阿弥陀如来立像」を堪能した後、僕らは巡回コースを辿って駐車場に戻る。
でも、OUTBACKを素通りして、駐車場脇の階段を下って渓流へと向う。雨上がりだからだろうか?それともここはいつもこうなのか?毎秒数リットルの細い流れからは、いかにもマイナスイオンを多く含んでる感じのミストが湧き立ち、そんな細い流れが数千年、数万年掛かって少しづつ掘り進んだ深い侵食崖をぼんやりと乳白色に染めている。なんとも安心感を覚える“瑞々しさ”そして“狭さ”。なんなんだろう、このホッとする感じは!


駐車場下の渓谷に下りると、雨上がり
の靄が立ちのぼる幽玄の世界

上:如意輪観音半伽像
下:渓谷の水際にひっそりとある2体の地蔵

そして上流側に目を転じると、その左岸の侵食崖にはAzuと等身大ほどの立、座2体の地蔵がとてもリアルに彫刻されている。これまで見た素朴で平板なものとは違って、深く刻まれた像は背中まで忠実に再現されている(モデルが存在するor何かしらの形で解剖学を学んだ石工の作としか思えない)。雨とミストの水分を身に纏った地蔵はヌメヌメと黒く光り、今にも動きだしそうな雰囲気が醸し出されている。でも、その柔和なお顔から、仮に動きだしても恐怖感は覚えないだろうな...そういう仏様である。


どうしてこんな目立たない場所に彫ったのだろうか?

美しい水にAzuは大喜び

地蔵の対岸の水際スレスレには梵字「カ」(その辺の地蔵さんにもよく彫られてるお馴染みの文字)が深く刻まれていて、その間に立つってことは具象(石仏)と抽象(文字)の狭間に立つってことを意味するのかな?などと少し講釈を垂れる僕である(あ、これはaki説で、たぶん間違いなのでサラッと読み流してくださいまし...笑)。
とにかく、こんなに人目に付きにくい場所にこれだけの物を彫る意味をあれこれ想像してしまってMasaと盛り上がったんだけども、Azuは石仏にはあまり興味がなく、ただただ渓流を泳ぐ小魚に目が釘付け。
『もぉ、今日はタモ持ってないわよね、悔しいぃぃ〜!』(笑)
そんな時、急に雲の隠れた西日がこの深い渓谷に降り注ぐ。太陽光線がミストのスクリーンに幾筋もの模様を作り出し、その光の先、水面近くにはプリズム効果の悪戯...虹!
僕らがここに下りるのを待っていたかのようなタイミングに、“何か”を感じてしまうのだ。


駐車場の紫陽花

国・天然記念物 椋本の大椋

渓谷の雰囲気を味わった後、僕らはOUTBACKに乗って、国指定天然記念物「椋本の大椋」(推定樹齢1500年!正直前に立つと寒気すら覚える巨木だった。)に立ち寄った後、伊勢別街道の宿場町・椋本宿へと向う。ここで旧い街並を楽しみつつ、有名な“赤飯饅頭”を買い求め、早く卓球ラケットのラバー貼り替え作業がしたいMasaの要望で、そのまま家路を急ぐのだった。
『いい一日だったね!』
『うん、波のない国府浜で波待ちして浮かんでるよりはね(笑)。』
遠くに行かなくても、身近な場所にまだまだ素晴らしいところがある...今更ながら、そんな当たり前のことに気付かされた一日。Masaが中学生になって時間的にな制約を受けるこれからは、こうした“隠れた名所探し”が我が家のテーマになりそうである。

 

 


2体の地蔵に射し込む幾筋もの光

 

 

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