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Photo Essay Special Edition


The Battle against 鮎釣り師

「すんませーん、通してもうてよろしかー?」鮎釣り師竿上げる。カヌーだんだん近づく。釣り師の表情を判断出来る距離。おっ、笑とる。よかった!

「ええもん乗っとるのう。にいちゃんどっからきたんや?」「田口ですわ。」
「今日は水多いでええやろ。」「田口からここまで1時間ですわ。」
「速いもんやのう。おっ、チビらも乗せとるんやな。」「おじさんコンニチハ。」
「はい、今日は。気いつけて行きよ。」「ありがとう、さいならー。」

この川をこれまで何十回と下って来て、大抵はこんな調子だった。そりゃ、なかには無言でルートを指差す人、明らかに迷惑そうな人もいた。それでも通過の際、「すんませんなあ。僕ら通ったら鮎逃げてくなあ。」「アホッ!そんなんで逃げへんさかい、心配せんと早う通り。」ぐらいの会話はあった。第一、20数キロの川下りで鮎釣り師に会うのは、解禁直後でも4〜5人。彼らは大抵支流の流れ込みにいて、カヌーのコースとは外れていた。僕にとって彼らは川で出会う数少ない人間だし、川遊びの同志ぐらいに思っていた。挨拶しても無視されることの多い他府県ナンバーのキャンパーに比べ、プロっぽい彼らのいでたちや、立ち振る舞いに一種の畏敬の念さえ抱いていたほどだった。

そんな訳で、カヌー雑誌などでパドラーと鮎釣り師の壮絶なバトルの記事を見る度、ホンマかいなと呑気に考えていた。友達に話すと「ガキ二人も乗せとったら、なんぼなんでも言えんわな。」と言われたが、いや、そんなことはあるまい。この川の鮎釣り師の人柄はええんや。と理解していた。

 ところが、この夏ついにやってしまった。
その日はカナディアン3艇で川下りをしていた。前日の雨で水位はスタート地点で普段の50cmアップ。朝まで雨が残っていたせいか、他のツアーは全く見当たらない。先頭のフネはソロの男で、二番目をタンデムの男ふたり、最後が家の家族4人乗り、という隊列を組んだ。
ツアーは順調に進み、ゴール地点目前ではるか前方に人影発見。早瀬の途中に鮎釣り師が4〜5人かたまって竿を出していた。やけに多いなあ、と少し悪い予感がしたので「うちが先に行って声かけるわ。」と隊列を組み替えた。(後でその時の心情を振り返ると、自分のカヌーがオリーブ色で一番地味だから相手を刺激しないだろう、とか女連れ、子供連れに滅茶苦茶は言わないだろう、といった甘えがあったかも知れない。)
 声が届くかどうかという距離から「すんませーん!」を連呼。釣り師のひとりがこちらに気付いたところで、「通ってもよろしいかー。」と声を掛ける。竿を上げて水面を指差すのが見えたのでOKのサインと判断。早瀬に入る。当然釣り師ひとりひとりに「すんませんなあ。」などと挨拶をする。ひとりめは片手を挙げて答えてくれる。二人めは軽く会釈、そして三人めは...
 「アホッ!通るな!鮎が逃げるやないか!」の声。「通るな言うとんのがわからんのか、アホッ!」「漕ぐな言うとんのがわからんのかアホッ!」

「アホ」を3回言われたところで、恥ずかしながらキレてしまった。リバースストローク入れながら、「アホて誰のことじゃ、コラ。」「わしら金払とるんやぞ!」「金払たらこの川はおのれのモンか、ええっ!」とトラブルの模範解答みたいなやり取りになってしまった。4人目の釣り師が小声で「あんなアホほっといて、早う行き、行き。」とフォローしてもらったのが救いだったが、子供たちは「なんかわからんけど、えらいこっちゃ。」みたいな顔で怯えているし、僕のあとに続いた2艇もトラブったらしく、非常に後味の悪いツアーになってしまった。もうほとんど上陸してBattleの心づもりはできていたが、「遊びに来てるのにケンカしないで、楽しくやりましょ。」という妻のひとことでそれは思い留まった。
ゴール地点で懇意にしてもらっている地元のおじさんにそれを話したところ、「そらニイちゃん災難やったな。あんな釣れへんとこで竿出しとるんは。シロウトやわ。釣れんでイライラしとったんとちゃうか。アハハ」と軽く笑われてしまったが、なにしろ初めてのトラブルにかなりショックをうけた。そして数日間考えて、今回の反省点をいくつか上げてみた。

反省その1

僕がケンカ腰で話したばかりに、そしてお互いに納得したのならともかく、捨て台詞まで吐いて流れて いったがゆえにあの釣り師は今後カヌーに決して好意的ではなくなるだろうこと

反省その2

鮎釣りのシーズンはほんの数カ月。カヌーは真冬以外(その気になれば真冬でも)は楽しめるのに、よりにもよって、釣りのシーズン真っ最中に川下りしたこと。

反省その3

これまではともかく、今回は子連れということで知らず知らずのうちに周囲(鮎釣り師も含む)に対して甘えがあって、「すんませーん。」に心がこもっていなかったのかも知れない。(BABY IN CAR!のクルマや電車で騒いでる子供を注意したら逆に睨んでくる親と大差ないじゃないか、これじゃ。)

反省その4

「近所の人間やからそうキツイ事は言わないだろう。」という甘え。グローバルな見方をすれば地元だけれど、あの釣り師の年代の平均的な考え方は「谷筋ひとつ違えばヨソモノ。」

そして、今後の対策といえば・・・。

対策その1

夏は川下りなんかしないで、瀞場での水遊びに徹する。もしくは、エアコンの効いた部屋で冷え冷えに過ごす。

対策その2

それでも釣り師に出会ったら100m以上手前でフネを降りて 歩いて世間話をしに行き、仲良くなったらそおっと通してもらう。交渉決裂の場合はイヤミたっぷりにポーテージ。(かなりまどろっこしいけど)

対策その3

なにしろ言葉に気をつける。「おのれ」はまずかった。とはいえ「おたく」や「あなた」も変だけど。宮川、熊野川での二人称は「おっちゃん」「おいさん」「あんた」が適当か。

対策その4

鮎釣りをもっと知る。釣りの概要が分かれば、もっとトラブルは減るはず。あのおじさんたちの仲間になるつもりはさらさらないけど。

対策その5

ケンカはしない。「遊びに来てるのにケンカしないで。」おっしゃる通り。でも石投げられたり、直接被害を受けるような暴力に対しては断固抗議すべき。普段はおとなしいけど、やるときはやる!コレ理想。

  

参考までに友達の意見を。
「鮎釣りは、これまで何百年、何千年と続いて来た遊びであり仕事である。今、川に入って鮎釣りをしているおじさんたちも十数年もしくは何十年と毎年解禁日を楽しみに過ごしてきた人たちで、鮎釣りは彼らのライフスタイルでもある。そこへ近年カヌーなんていう見慣れない舟に乗った若いやつがやってきて、「釣れますか〜。」などと呑気に竿の先をかすめて行く。中にはあれ〜とか言って突っ込んで来る。もし俺が鮎釣り師だったら、ニコニコ笑って相手できるかな。釣果が悪い時は嫌みのひとつも言いたくなるかもしれない。」

加えて、いつも川べりで川を眺めてるおじいさんの意見を。(注*2000年にお亡くなりになったそうです)
「川は昔から重要な交通路やった。宮川かて材木の運搬に使われていたわけやしな。でもトラックにその役目を譲ってから川を舟が行き交うことが見られんようになった。それからや。人が川に背を向けて生活するようになったんは。だれも見てへんと荒れていく。子供も女も、川も。でも今度はカヌーていうあんたらの舟が川を行き交うようになった。きっと川は生き返るよ。鮎釣り師?気にしてたらあかん。今の4、50代は賑やかやった川を知らん。70、80の人間はわしみたいにこうやって川を眺めとって、あんたらみたいな若い人が川に戻って来てくれたんを見てうれしてしゃあない。わしはもちろん、今鮎釣りしとるやつらもあんたらより歳いっとるんやで先に逝くわな。それから自由にやんなさい。はっはっはっは」

 

1996 akihikom

 

 


鮎釣り師10人に聞きました

じっとしてるのが嫌いな僕は鮎釣り師にアドバイスを求めました。


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