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 April.2004 part.4

 

 

 

 


これぞ熊野川!静寂の中を漕ぎ進む

4月18日 熊野川ダウンリバー&熊野三山巡り

『ホラッ、早く起きて!もう4時半過ぎてるわよ!』僕を優しく包む布団がガバッと剥ぎ取られる。ん?は?ナニゴト?『早く!もうっ!早く起きないと熊野川、風が吹き出しちゃうわよ!』えっ?クマノガワ...何ソレ?寝起きの僕の頭が低回転ながら回り始め、目を開けると、ベッドサイドに野遊びウェアに身を包み、お化粧バッチリなMamaが立っているのがぼんやり見える。『えっ、あっ、熊野川に行くってのはほんの冗談だったのですけど...』目を伏せながら消え入るような声の僕に、Mamaはたたみ掛けるように続ける。『ナニ言ってるの!もう、着替えも何もかも準備終わってるのよ。熊野川を下って温泉に行くんでしょ?早く起きてカヌーの準備をしてちょうだい!』

そんなわけで、まだ夜も明けない午前5時前、僕は大慌てでカヌーの準備。急げばそれなりに早くできるようで、20分ほどで2艇のカヌーと最低限のダウンリバー装備の積込みが完了し、5時ちょうどスタート。『ふうっ。』カヌー行でスタート直後にため息が出ちゃうのは、今回が初めてかも(笑)

伊勢道からR42を南へ。通勤路の次に慣れた道なので、考えるより先にステアリングを回す手が動くほど。ただ今日は久々の2艇積みということで、かなり風切音が大きい。3艇積みMagic-o-carrierの素晴らしさを再確認する僕である。

道の駅・きのくにで朝食を食べ、熊野市内のコンビニで食料を買い込んだ後、新宮のJOMOでガソリンを入れ(普段は満タンスタートだけど、今日は熊野に行くつもりがなかったので給油していなかった!)、8:40、スタートポイントの熊野川町役場前の三和大橋下流の河原に到着。


8:30三和大橋に到着し早速カヌーを運ぶ。

晴天&無風、エメラルドグリーンに澄み切った熊野川...コンディションは抜群のようだ。
早速河原にお着替えテントを建て、女性陣が着替えてる間に2艇のカヌーとダウンリバーの装備を水際に運ぶ。


Kumanogawa green!

川に着くなり魚捕りを始めるAzuとそれを止めさせるMama

河原には何故かカカシが立ってて(川に向って立ってるのが、熊野川らしい。ここでは川が“オモテ”だからね...笑)、カヌーを担ぎながらふとカカシの顔を見ると、カヌーを落っことしそうになるほど怖い顔でビックリ!
早くも川に入って小魚捕りに夢中なAzuと、すでに髪から水飛沫を飛ばして河原を走り回ってるMaakun(オイオイ、朝9時前から泳ぐなよ!)を全員集合ホイッスル(━・・・・)で呼び集めて、カカシ君との記念撮影を済ませた後、熊野川に漕ぎ出す。

 


何故か全ての河原に案山子が。
(クリックすると顔が拝めますが、見ない方がイイと思います...笑)


9:00スタ−ト(背景に美しい三和大橋)

スタートは9:00ちょうど。
グループでのツアーだと、クルマの回送や準備などで河原への到着からスタートまでに2時間程度必要になるけど、今日は我が家だけってことで20分の早業なのだ。
朝の天気図の気圧配置によれば、いつ東寄りの強風が吹き始めてもおかしくないんだけど、今のところ熊野川の川面は鏡のように凪いでいる...そう、本当に鏡なのである。
川にはカカシと僕ら以外に誰もいなくて、僕らの前に続く広大な鏡には、熊野地方独特の険しく、でも穏やかな山容が“川の水平線”を中心に線対称に写し出されている。
圧倒的な広がり!
遠近法のお手本のような光景はお子ちゃまAzuでさえも、思考回路がしばしフリーズしてしまうほどの迫力で僕らの心に迫るのである。

一見、流れのないように思える瀞場も、ふと川底を見ると結構なスピードで川底の小石が後方に飛び去っている。波ひとつないのにこのスピード...太陽の位置と川底に映る船影から推測すると水深は3mを超えるというのに、川底にある小石の鮮明なことといったら...やはり熊野川は他とは違うとの思いを強くする。


水深3m。川底の小石ひとつひとつがクッキリ見える

『あっ、あれ何?』Azuの叫びに視線を右に移すと、鏡の一部が盛り上がったように波立っている。10秒ほどで波は消える。『今度はあっち!』カヌーのやや左前方5mほどに現れた直径2mほどの円形のさざ波。僕は軽くラダーを入れてカヌーを波の方向に向ける。カヌーのバウが波の円形の上を通過する...『うぁ〜!魚よ!魚がいっぱい!』さざ波とカヌーのバウが起こす波が混じり合う中、僕らが水中に見たのは体長数cmの魚の大群だ。1000尾?10000尾?とにかく無数の小魚がトランス状態で狂ったように群れ泳ぐ姿だった。

景色に目を奪われパッセンジャ−と化すAzu
コ−ス取りを誤ってライニングダウンも(涙)

15分ほど流れに身を任せていると、前方から瀬音が聞こえてくる。僕らの進むべきルートを示すかのように典型的なダウンストリームV。Vの先には波高50cm程度の三角波が5〜6個白い波頭を白く光らせている。1級にも満たない瀬である(僕が写真を撮る余裕がなかったほどだから1.5級かも)...が、バウのAzuは頭からスプラッシュを浴びること必至である。

『Azu、濡れるぞ!』mont-bellの耐水生地のキャップを目深に被り直して、Azuがパドルを構える。カヌーの周りが瀬音で騒がしくなり、耳元で風切音が鳴りはじめる。不意にバウが持ち上がり、次の瞬間Azuの足元付近の両側のガンネルから大量の水が流れ込む。再びバウが上がり、カヌーの中に入った水が僕の立てた膝を洗う。2回、3回...長い周期のピッチング。4回目の波が一番大きく、バウのAzuばかりか僕のサングラスまでもが水滴に覆われ、前方の景色がトンボの目のように見える。揺れが落着いて白波が消えたところで、くっきりとした逆流との境目にバウを差し込み、たぶん10km/h以上の速度差を利用して急転回でエディに入り、後続のMama&Maakunを待つ。
予想通り、バウのMaakunはパドルで“おいでおいで”をするようにドローでサイドスリップを試みて、何とか三角波の頂点にフネを運ぼうとしている。


前方に隠れ岩発見!!

安全第一のMamaは波頭を避け波間の水面をパドルで押さえるような素振りでブレイス。Maakunが振り返って何か叫ぶと、Mamaもクロスを入れてカヌーはやや斜めに波頭に向いてゆく。
あっ、あいつ、瀬の真ん中でMamaを説得してらぁ(笑)。瀬音で何も聞こえないけど、ふたりのやり取りが手に取るように分かって笑える。バウだのドローだのブレイスだの...カヌー用語は一切覚えようとしないふたり。


メチャ楽しそうに瀬をゆくMama&Maakun

『Mama、パドルは道具じゃないよ、手の延長だよ。浮き輪で水に浮かんでる時の手の動きを思い出して!右を向きたい時は右手を後ろから前へ、左手を前から後ろへ動かすだろ?オレが右手でMamaが左手なわけ。解る?』
...Maakunがこんな風にMamaにタンデムパドリングの極意を教えてたのを聞いて、Maakunが付いてるからダイジョウブ!なんて感じている僕である(笑)。
ふたりの赤いPATHFINDERは波頭にドンピシャで三角波に進入。盛大に飛び跳ねてくれるのを期待してた僕だけど、なんとも“まったり”と超・安定した姿勢のまま連続する波をクリアしてゆく。
エディで待機する僕の横を猛スピードで通過してゆく2人は親指を立てて得意満面。次の瀬をクリアしたところで追い付いて聞いてみると、これまでのHUNTERに比べてPATHは揺れなくて面白くないとのことだ。

『前を行くPapaが相当揺れてたから、ちょっと怖かったけど、全然揺れないし水も入らないし...PATHって乗りやすいわね。』確かに、ベイラ−が浮かぶほど水を喰らったCAMPERに比べ、PATHはほとんど水が入っていない。バウ高の数cmの違い(CAMPER<PATH)というよりも、長さと重量バランスの違いなんだろうけど、今度買うならPATHだな、との思いを強くするのだ。


痛快な瀬が随所に

 

三和大橋からの数キロ区間...もしかしたら熊野川で一番美味しい部分なのかもしれないな、そう感じながら、鏡のような瀞場で遥か深い川底を覗き込み、小さな瀬で透明で清冽な水を浴びつつ、僕らは初めての休憩を取るために左岸に上陸する。

普段の熊野川ダウンリバーは、速い流れに乗って一日に最低20km、男性だけなら45km以上を一度に漕ぎ下る場合も多いので、三和大橋から数キロのこの河原に立ち寄るのは初めてのことである。

春色の広葉樹林を背に広がるこの河原は、遠方にコンクリートプラントが見える以外は周囲に人工物が全く見えず、裸で過ごしても誰に咎められることもなさそうな場所だ(笑)。しかも裸足でも心地よい玉砂利の中に数メートルもの巨石が多数点在し、“河原遊び”に最高のロケ−ション。

カヌーを小さな入り江に滑り込ませ、上陸するなり巨石群に全速力で駆けてゆく子供達。まずは一番大きな石によじ登り、登頂を果たして万歳三唱。次に熊野川の流れによって様々な形に削られた岩に座ったり寝転んだり跨がったり...


休憩ポイントに到着

ここは魅力的な岩だらけ!

昨日は登攀禁止の岩ばかりだったので...

『あっ、ソファだぁ!』
『こっちはベッドよ!』
『モアイもあるし、そっちは“鬼の雪隠”そっくりだぁ。』
『Azuの雪隠...なんちゃって(笑)』(*「鬼の雪隠」は4/17カヌー日記を参照ください)
『見て見て!こうやって黒い石で目を付けたらイルカそっくり!』

先週の宮川の河原の10倍はあろうかという広大な河原でハアハア息を弾ませながら走り回るふたり。


Azuの寝床

Azuの雪隠(昨日の明日香村には鬼の雪隠)

イルカ岩

全部の岩を回った後は、ふたりでウォ−タ−ポットホ−ル探し。
『パパァ〜!でっかいポットホール見つけたよ〜!発掘しようよぉ〜!』
ゆったり夫婦で過ごそうと思ってたのに、何度も大興奮な子供達に呼ばれてしまう僕なのである(涙)。Maakunに呼ばれて行ってみると、確かに直径50cmほどのポットホール。
『砂利がたまってるけどさぁ、深さはどれぐらいあるんだろ?やっぱり底は丸いのかなぁ?掘ってみない?』
『何言ってるんだ、バカバカしい!』
...なんてこと言わないのが僕の子供っぽいところ(笑)。

3人で必死で掘って見事にまあるいポットホールであることを確認しました...全部掘るのに30分かかったけど(涙)

 


ウォーターポットの曲線が美しい岩のソファ

確かこの河原に到着したのは10:00前だったはずなのに、気が付けば既にお昼前。案の定『腹ヘッタ!』コールが河原に響き、カヌーからクーラーバッグを下ろして、ランチを楽しむ。ゴール予定地の新宮市・熊野速玉大社前(今日は我が家単独行動なので紀陽銀行そばの権現前バス停からバスでスタートポイントに戻る)までは約20km。スタートからゴールまではカヌーマラソンペースだと2時間、普通にガシガシ漕いで3時間、流れに身を任せて4時間ってとこだけど、今日は約3km地点で3時間が経過してる(笑)。ランチを済ませた後も『今度は森に入るぞ、Azu!』などと言いながらMaakunは遊ぶ気満々...僕とMamaは呆れたような微笑みを浮かべて顔を見合わせながら目で会話(笑)『どうする?許す?』『別に良いんじゃないの?パパがどうしても新宮まで下りたいんじゃなけりゃね。』『いや、別にオレはどうしてもってワケじゃ...。』『じゃ、遊ばせてあげましょうよ。』『そうだね。』
...ってことで滞在延長決定。


途中でペアを交代してグレード0.5〜1の瀬を楽しむ

流れが強くて本流に跳ね返されてしまった!(涙)

折しも、川下から風が吹き始め、後半の瀞場を鬼の形相で漕ぐ自分たちの姿が思い浮かぶ。『すぐ下流が道の駅だからさ、そこで上がろう。こんな短距離で熊野川を終わったことないからクルマを入れられるかどうか判らないけど、ま、階段かスロープはあるから担げばいいし...』更に一時間近くこの河原で子供達をノ−リ−ドで放飼いにした後、向い風の中を僕らは再び川上の人となる。せっかくだからってことで途中の瀬で僕がPATH に乗って流れが複雑な瀬で瀬遊びを楽しみ(ちなみにココはまさにNESSYさんがカヌーマラソンで沈して2km流された地点...笑)、道の駅直下の河原でゴール。


ゴール地点全景 あの位置からここまで
カヌーを運ばなければならない(涙)

ここのところ3艇だけど今日は2艇でラクラク!
...そんな風に感じてしまう自分が怖い(笑)

『こういうダウンリバーもアリかな?』
『アリよアリ!だって、あなたいつも言ってるけど、カヌーって自由なものでしょ?なのにゴール決めるなんて変よ、やっぱり。』

『だよなぁ。遊びたい時は遊ぶ、漕ぎたい時は漕ぐ...それでいいのだ!ってバカボンみたいだけど(笑)』
そうは言っても、こういう自由、言い換えれば気ままな行動が取れるのは、単独行動だから。普通はこういうことは許されないわけで、今日のカヌーは実は凄く幸せで贅沢なカヌースタイルなのかも...妙に嬉しい気分になる僕だった。

カヌーを岸に上げ、Maakunは泥だんごの材料探し&Azuは小魚捕りを楽しんでる隙に、僕はスロープから道の駅に上がって、よくめはり寿司を買いに立ち寄る“かあちゃんの店”で情報収集。
バスの時刻表を確認すると三和大橋方面行きは30分後ということなので、先に荷揚げを済ませることにする。PFDやスローロープなどはAzu、パドルやクーラーバッグはMaakun、防水バッグはMama、そして2艇のカヌーは僕と手分けをして運ぶと10分ほどで荷揚げ完了。これまで何十回も繰り返した作業だけに手慣れたものである。

小魚捕りをしたいAzuとその保護者のMamaを河原に残して、僕とMaakunは熊野交通バスで三和大橋に行って、Discoで道の駅に戻る。最近は3艇体制に慣れてたので2艇なんて楽々に感じるのが自分でも可笑しい。


膝に爆弾を抱えてこの階段はかなり辛いかも...

↑バスに乗ってクルマに戻る

全ての荷物を積み込んで、川を眺めながら缶コーヒーで文明の尊さを味わった(笑)のが、13:00。
当然ながら全然疲れてない僕らは、道の駅の歩道に座って次なる計画を相談する。で、家族の総意で決定したのが、『今から熊野三山詣をしよう!』ってこと(笑)。

熊野川や熊野古道...僕らが普段遊ばせてもらってるフィールドは、実は熊野三山へ通じる参詣路なわけで、僕以外のメンバーが肝心の熊野三山に行ったことがないってのは、さすがにマズイだろうし、大好きな熊野を更に理解するためにも行くべきだ!(そういう不信心な僕らだから、熊野川を下るたびにカメラや財布やコンタクトレンズや...諸々を強制的にお布施させられるのでは?という意見も...笑)
まずは、熊野川を遡って熊野本宮大社へ。

 


 


青空に映える熊野のシンボル“八咫烏(やたがらす)”

熊野三山巡り
北山川との合流点を左にとってしばらく走ると、熊野本宮が姿を現す。
ここは熊野川信仰の地であり、その昔は熊野川の中洲に壮大な規模で造営されていたのだけど、明治22年の大増水で、その一切を流されて今の小高い山の上に移転したという歴史がある。


僕らが下った熊野川。実は熊野古道なのである。

『私は熊野三山にお参りしたことがない!』と強く主張していたMamaだけど、本宮の石段の下に立つと前言撤回(笑)。そう、あれは10年ほど前。家族3人でHUNTERに乗って熊野川を下った時に立ち寄ったのだ。あの時はMaakunは2才で、AzuはまだMamaのおなかの中。2才の乳幼児と身重の妻を引き連れて、瀞峡から志古までの25kmを下るなんて、何てチャレンジャーなんだろう!(笑)。それに比べれば、今の我が家のカヌーは遊園地の急流下りアトラクション同然の気楽さだよなぁ...。
本宮でお参りを済ませた僕らは、カヌーに貼るお守りステッカーやキャンプで重宝する手拭い(これらのデザインが秀逸!)を買って(Azuには門前のお土産物屋で八咫烏の“やたちゃん”のぬいぐるみを買わされました...涙)、「もうで餅」の茶店で“もうで蕎麦”を戴き、本宮を後にする。(時間が許せば、大鳥居が復活した本宮が元々あった中洲「大斎原」(おおゆのはら)も見学したかったけど、次の機会にということで...)


熊野川信仰の熊野本宮に参拝

神倉山の巨石・ゴトビキ岩信仰の熊野速玉大社に参拝

熊野川に沿って新宮市街に戻り、いつもゴール地点にしている熊野速玉大社(新宮)に到着。ここは熊野川DRの最後に目の前にそびえる屏風のような山・神倉山にある巨石“ゴトビキ岩”を起源とする速玉神を祀っている、いわば「巨石信仰」の神社である。熊野は元来、奈良を中心とした都・ヤマトとは文化を異にする地域であり、現在のように神道に則った様式になる以前は、山、川、岩、海などに対する畏敬の気持ちから自然発生した原始的な宗教の聖地だったと考えられている。(その後、都の権力が及ぶにしたがって、“踏み絵”のように神道形式に改められたんだろうな...)決して信仰心が強いわけではない僕らだけど、人一倍自然の偉大さに畏敬の念を感じてるだけに、熊野の地にこうしたいわば“ナチュラリストの聖地”的な場所を設けた古代の人々と通じ合う部分があるのは確かなのである。


那智の滝信仰の熊野那智大社に参拝

本宮と同じく、速玉さんも拝殿がいくつもあるスタイルなので、100円づつのお賽銭もバカにならないんだけど、ま、今日はそういうことは言わずに、ひとつづつ丁寧にお参りする僕ら。速玉大社のお参りを済ませた僕らは、R42で那智へ。
熊野三山で最もメジャーな観光地である熊野那智大社は、落差133m、日本でも最大級の滝である“那智大滝”の滝壷直下にある「滝信仰」の地である。国指定天然記念物の鬱蒼とした森の中に伸びる階段を下りてゆくと、薄暗い森から白い龍が天を目指して飛び立つかのようにも見える那智滝がその流麗な姿を現す。紀州地方を代表する観光地だけに駐車料金はもちろん、滝壷の拝観料まで必要で『なんか、ちょっとなぁ...』って感じもするけど、滝壷は家族4人で¥1000也を払って見る価値アリでございました。


那智の滝(133m)

国指定天然記念物の原生林

瀧はサンズイに龍。まさに白龍だ

那智大社への参詣をもって、熊野三山巡礼の旅は無事終了。
熊野への日帰りカヌーだけでもかなりの強行軍だというのに、熊野三山まで...僕の“ほんの冗談”から始まった今回の旅はこれまでになく充実した素晴らしい思い出を僕らに残してくれたのであった。

『じゃ、帰ろうか?』那智大社からの“那智黒街道”(Maakun命名。行った人は分るだろうけど、沿道に立つ“黒飴・那智黒”の黄色い看板がハンパな数じゃない。50mに1枚はあるかな?そこまで宣伝しなくてもいいだろうに!と呆れるほどである)をDiscoで下っていると、『あっ!停めて!』Mamaが絶叫する。な、なんなんだ!?『温泉よ、温泉!ホラ、そこに看板があるでしょ?』確かに、道路の右側に架かる橋に古ぼけた“那智天然温泉”の看板。『天然、って天然じゃない温泉なんてあるのかなぁ?』Maakun含み笑い。ガイドブックにも観光協会のリーフレットにも載ってない温泉の出現に好奇心を強く刺激された僕らは、怪しげ、思いっきり怪しげな雰囲気に思わず橋を渡って温泉の駐車場らしき広場にクルマを乗り入れる。


これが那智天然温泉の入口(爆笑)

美肌効果はこれまでに経験したなかでNo.1!(断言!)

広場の奥には廃車のバスが一台。『なんか、いっぱいクルマが停まってるぞ!』『見て見て!クルマより“お達者カー”(電動車椅子)の台数の方が多いわ!』車のほとんどが軽トラ、しかも100%和歌山ナンバー...これはもしかするとメッケもんかも!
最初は面白がってたMamaも、その鄙びたというより古びた雰囲気に腰が引け気味。『ねぇ、ちょっと違うんじゃないの?止めましょうよ!。』でも、この雰囲気が大好きな僕とMaakunは、ムフフフと笑いを浮かべて『これはこれは...スバラシイ!』などと呟きながら車を降りる。『ちょっと、偵察してくるね!』Maakun嬉しそう。


内側は電熱器で沸き上がり外側は人肌な浴槽

鉄格子のような門をくぐると右手に赤錆色のエッフェル塔(!)温泉は左側のようだ。『いいねぇ、うん、最高だ!』故障中の張り紙がある自販機の横に温泉の受付を発見し、受付のおじさんに詳細を尋ねてみると...料金は大人¥200子供¥100。もちろん天然温泉で(笑)、お客のほとんどが近所の人。一応、男湯と女湯に分かれてて、なんと露天風呂もあるのだそうだ。施設を見回すと、女湯の入口のドアが壊れててカーテンに変わってたり、男湯の更衣室から風呂場への通路が外から丸見えだったりと、かなり古びている感じだけど、おじさんはとても良い感じの人だし、よ〜く観察すると古いながらも、各所がピカピカに磨き上げられているのが判る。しかも、地元民御用達!
『こりゃ、入るしかないですな。』『そうですな。』
僕とMaakunはニコニコ顔でクルマに戻り、後ずさりするMamaとAzuを引っ張って受付に戻る。『シャンプーとか石鹸とかないですよね?』Mamaが恐る恐る尋ねると...

『なんやぁ、持ってないんか?ホレ、ワシのを貸したるよぉ〜。』とおじさんはマイ・シャンプー“フケ、イヤイヤァ〜ン!”なメリットを差し出してニッコリ(笑)。
固い表情の女性陣と別れて温泉へ。温泉には先客が10人ほど。揃いも揃って70歳以上のおじいさんばかり。全員に目礼をして湯船へ...ぬ、ぬるい!『ぬるいやろ?やけど、これがええんや。1時間でも2時間でも入っとれるやろ。そいでここで喋るんがワシらの楽しみや。』ナルホド!でも、このヌルさは我慢ならないので、90cm四方の戸棚のような扉を開けて露天風呂があるという外に出てみる。
おおっ、温泉施設には不釣り合いなほどに立派な岩風呂に驚き!でも、ほんの目と鼻の先で地下足袋履いたオジサンが農作業中(笑)。振り返ると、今僕らが出てきた扉の隣に同じ大きさの扉がもうひとつ...露天は混浴なのでした。
『最高!ちょっとぬるいけど。それにボイラーも濾過装置もないから掛け流しで清潔だし。』な僕とMaakun、そして『古いながらもすごく清潔よね、でも素通しの窓から道路が丸見えで落着かなかったわ。』なMamaとAzu。
印象はかなり異なったけど、ま、公営の新しい温泉施設では味わえない経験が出来たことは確かである。


南国ムードたっぷりな露天岩風呂 

...こんな感じで今年初めての熊野への旅は終わりを告げる。

『ところでさぁ、ひとつ聞きたいんだけど、ホントに“熊野に行こうっ!”ってオレの言葉を信じたの?』
『うふふふ、まさか。冗談だと思ってたけど、驚かせてあげようと思ったのよ。』
『えっ、やっぱりそうなんだ!』
『そうよ、アナタはHPに“奥様の瀬(5級)”とか書いてるでしょ?瀬がオイデオイデしたら、どんな顔するか見たかったのよ(笑)』
『...』
『それに、今日みたいに良いお天気の日に行かないと、アナタは南の方を見つめてため息ばかりついてるでしょ?』
おっしゃるとおりでゴザイマス(涙)

...自分が主導権を握ってるつもりでも、実は奥様の手のひらでコロコロ転がされてるだけ...なんだなぁ、やっぱり(笑)。そんな奥様と、誘ったらニコニコ付いて来る“人ごみ嫌いな”Maakun、嫌々ながらも気分転換の素早いAzu、そして『にゃお〜ん!(いってらっしゃい)』と留守番が平気なChichoに感謝しないとイケナイなと思うわけです、はい。

 

 

 

 


 

熊野に関して詳しく学ぶなら、旅行ガイドブックよりもさらに一歩踏み込んだ内容の別冊・太陽「熊野 異界への旅」がオススメです。ただカヌーを楽しむだけでは勿体無い熊野の地。歴史や文化を学んでからの出かけると、さらに野遊びの幅を広げてくれると思います。

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