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Photo Essay Vol.10


16年ぶりのトランペット

 

「パパ、とらんぺっとってなあに?」

同窓会の知らせを聞いて、久しぶりに開いた卒業アルバム。アルバムからこぼれ落ちた寄せ書きの色紙。それを見つけた息子が、興味深げに声に出して読みはじめた。

「とらんぺっとさいこうでした。こうこうにいってもおげんきで!ってかいてあるね。ねえ、パパ、トランペットってなあに?」

・・・1981年3月。とある中学の体育館では恒例の「卒業生を送る会」が行われていた。在校生の出し物が終わり、いよいよ我が3年A組の合唱、シャネルズの「ランナウェイ」の前奏が始まった。整列したクラスメイトの前では顔に靴墨を塗った4人の男子生徒が踊る。そのうちのひとりがトランペットを手に進み出る。曲はいよいよ間奏に・・・。

友達のひとりが「こいつ、トランペット吹けるんだぜ。」と言わなければ誰も知らなかった僕のトランペット。勉強もスポーツも人並みで、特に目立つ生徒ではなかった僕に突然廻ってきた大役。たった15秒の独奏だったけれど、その記憶は今も鮮やかに蘇る。靴墨の匂いと顔のヒリヒリ感と共に。

息子のリクエストで16年ぶりに吹いてみる。
調子外れの音。
耳を塞ぐ息子。
腹をかかえて笑う妻。
泣き出す娘。

でも15歳のトランペッターになりきった僕は、「ランナウェイ」を始めから終わりまで演奏した。くちびると指は覚えていた。どれが「ド」なのか「ファ」なのかさえも忘れてしまっていたけれども。

そして、こころなしか顔がヒリヒリした。そんな気がした。

 

1998 akihikom

 


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