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Photo Essay Vol.5


かもめのすいへいさん


絵本「Canoe Touring in Miyagawa」より
illustrated by aki 1995

♪か−も−め−のすいへいさ−ん♪ な一ら−ん−だすいヘーいさ−ん♪息子は唄った。目の前を飛んでいるのはアオサギだったが父も唄った。♪か−も−め−のすいへいさ〜ん♪

 田口大橋を出て2時間。父と息子をのせた赤いオールドタウン・ハンターが赤い鮠川橋を音もなくくぐっていく。初春のある日。久し振りの青空。いつもより水量が多いが、いつも通り澄んだエメラルドグリーンの流れが、2人の赤いカヌーを下流へと運ぶ。父は、息子に連れられ、今年初めて宮川を下った。                        

 静かな川面に背くパドルの音、ウグイスの声、時折魚がジャンプする“ボチヤン!”という音。そんな音をかき消すようにかすかに聞こえる“ゴーッ”といううなり声。息子が立ち上がり前方を凝視する。そして叫ぷ。“せだ一っ!”叫ぶと同時に姿勢を低くし、センターヨークにしがみつく。

一級にも満たない瀬である。しかし、身長96cmの彼にとっては、大津波のように見えるのだろう。バン!バン!バン! バウが波をたたく。赤いカヌーは、ピッチングをくり返しながら進む。父のパドルは波頭を確実にとらえ、小さくプレイスしながらも激しく動く。(昨年は激しく空振りしていたが)キャッホー!奇声を上げる父。(昨年はキヤー!と悲鳴をあげていたが)水しぷきを浴びながらも、細かな体重移動をする息子。(昨年はバウからスターンまでコロコロころがっていたが)うん、なかなかやるじゃないか。父は2歳の息子を頼もしく思った。“キャッホー!”再び父が吠える。と、その時、息子はおもむろに振り返り、大声で叫んだ。“か−も−め−のすいへいさ−ん!”以来、父と息子の赤いカヌーはいつも“か−も−め−のすいへいさ−ん”という叫び声を残し瀬に吸い込まれていくのであった。

[CANEWS] 1997 akihikom

 


 

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