♪か−も−め−のすいへいさ−ん♪ な一ら−ん−だすいヘーいさ−ん♪息子は唄った。目の前を飛んでいるのはアオサギだったが父も唄った。♪か−も−め−のすいへいさ〜ん♪
田口大橋を出て2時間。父と息子をのせた赤いオールドタウン・ハンターが赤い鮠川橋を音もなくくぐっていく。初春のある日。久し振りの青空。いつもより水量が多いが、いつも通り澄んだエメラルドグリーンの流れが、2人の赤いカヌーを下流へと運ぶ。父は、息子に連れられ、今年初めて宮川を下った。
静かな川面に背くパドルの音、ウグイスの声、時折魚がジャンプする“ボチヤン!”という音。そんな音をかき消すようにかすかに聞こえる“ゴーッ”といううなり声。息子が立ち上がり前方を凝視する。そして叫ぷ。“せだ一っ!”叫ぶと同時に姿勢を低くし、センターヨークにしがみつく。
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