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Photo Essay Vol.3


ボルボはすごい。

 

「あれっ、四駆じゃないの?」
「クロカン四駆だとばかり思ってた、意外だね。へえ、ボルボか・・。でも、これってFFでしょ?FFじゃ河原なんかでスタックしやすいでしょう。」

趣味はカナディアンカヌー、主に川下りを楽しむツーリング派。そんなわたしがボルボで現れると誰もが意外に感じるようだ。「いや、一度も。このあいだ四駆のスタックを助けたことはあったけどね。」
水ぬるむ頃になると、わたしの遊び場の小さな河原は大型の四輪駆動車、いわゆるクロカン四駆でいっぱいになる。
夕方になって、わたしが対岸でテントを張り焚き火を始めるころに四駆たちは帰り支度を始めるのだが、お約束のようにそのなかの一台がスタックし盛大に砂利を巻き上げ、タイヤを沈ませる。川を渡るゴムの焦げた臭い。


絵本「Canoe Touring in Miyagawa」より
illustrated by aki 1995

「ボルボってそんなにスゴイんだ。」
「いや、確かにすごいクルマではあるけど・・。やっぱりFFだから四駆の真似はできないよ。でもね、僕は絶対スタックさせない方法を知っているからね。」

スタックした四駆はひとしきりホイールスピンを繰り返した後、対岸のテントを見つけ、手を振って助けを求める。私は育ち始めたばかりの焚き火の世話を息子にまかせ、カヌーでを川を渡り、スコップを手に加勢する羽目になる。

「FFをスタックさせないテクニックねぇ。どういうことか教えてよ。」
「河原って堤防から水辺に向かって下り坂だよね?だからアタマから入って、戻るときはUターンしたりしないで、そのままバックで引き返す。すると駆動輪に荷重がかかって・・・そう、RRのクルマと同じになる沢だ。でも、これだって四駆には敵わない。とっておきのテクニック、一番完璧な方法。それは『河原にクルマを乗り入れないこと』さ。これならスタックしようがもの。」

カーゴルームにはけん引ロープ、脱出用プレート、スコップの「スタック三点セット」を用意しているが、わたしは決して河原にボルポで入ることはしない。道路から水辺までカヌーを肩に乗せて運ぶことにしている。5m近いカヌーも重さはそれほどでもないので、コツさえつかめば子供を抱きかかえながら片手で運ぶことも可能なのだ。

「でも、やっぱり重いだろ?」「まあね。女性だと16フィート級はつらいかも。妻なんて14フィートでもムリだから。でも今の社会じゃ、父親にしかできないことって少なくなってるから、子供達や妻にパパの力強さを見せるいいチャンスかもね。」

きっかけは、川下りの途中、昼寝をしていた河原の窪地で息子共々四駆車に轢かれそうになったこと。そして自分たちと同じように河原の窪地を巣にする野鳥の存在を知ったことなどだ。
「カヌーつて数あるアウトドア・アクティビティーのなかでも、特に自然環境に依存する度合いが高いからね。カヌーを楽しむことでなるべく自然にインパクトを与えたくないんだ。でもクルマを使うことは残念ながら自然を痛めることにつながる。ノー・インパクトが無理なら、せめてロー・インパクト。なんだかボルボの広告みたいだけど。」「だから、ボルポなんだね。」「ぇぇ、まあね。古くから環境問題に真剣に取り組んでいる会社だしね。でも、理由はそれだけじゃないよ。ほら、僕の肩よりルーフが低いだろ?肩に載せたカヌーをキャリアに移すのだって、ラチェット・ベルトを掛けるのだってボルポならひとりでできる。背の高い四駆じゃこうはいかない。カートップだけ考えたら、セダンのほうが都合がいいんだけど、荷物が多いしね。」
意外に知られていない事だが、メーカー、車種によってルーフレールの耐荷重は大きく違う。そのなかでもボルポはトップクラス。レールの長さも十分にあり、その取り付け位置も絶妙。まるでカヌーイスト仕様のようだ。

「でも、このあいだ雑誌にボルボの四駆仕様の話が載っていたよ。アレがでたらどうする?」「飛びつく!(笑)価格次第だけど、多分ね。でも河原には入らない、絶対に。」
「じゃあ、当分はボルボだね。」「ぅん。川下りのゴール近くになって、遠くのほうにボルボが見えてくると「あ−無事についたァーってなんだかホッとするんだ。息子なんて「ボルボちゃんだ!ボルボちゃんだ!」って立ち上がって手を振ったりして・・。大袈裟かも知れないけど、二、三日文明に背を向けるカヌーツーリングなんて遊びをした後、荷物を全部積み込んで、ボルボの大さなシートに深く腰を沈めてエンジンをかけると、独特の五気筒の音がして・・・ 『あ−文明だなァー』なんて深く感動するわけよ。」「文明ねぇ。」

自然に分け入ること、クルマに乗ること・・どちらも自然に少なからず確実に悪影響を及ぼすけれど、息子たちに自然を愛するココロが少しでも芽生えてくれたら、息子たちが、ゎたしたちの世代にはなし得ないかもしれない、「自然との共存」を達成するための一員になってくれたら。きっと自然は許してくれるんじゃないか。そう考えて、わたしは今日もボルボを走らせる。素敵な、いつもの川に向かって。

 

 1996 akihikom

  

 

そんな事言ってたのに四駆買ってしまったいいわけ

 


 
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