「人生とは航海のようなものです。」
友人の結婚式。天井まで届きそうなウエディングケーキ。その隣で初老の男性がスピーチを始める。
「ほら始まった!『二人の人生は穏やかな時ばかりではありません。嵐の日もあるでしょう。』って続くんだよな。」夫は小声で妻にささやいた。
「ええ、『そんな時もふたり力を合わせて人生の荒波を乗越えていって下さい。』で終わるのよ。」妻が含み笑いをしながら頷く。
ある春の日。とあるカヌースクール。
「右だー!右!」「さっきから漕いでるわよ。」「ばか!それは左だ。右!右」「バカバカってなによ!」「バカだからバカって言ってるんだ、バカ!」
「ぶつかるー!」「キャーッ!」 ドッボーン!
『ふたりの関係をもっと親密にしたいなら、カヌーがおすすめ。川面をわたる、さわやかな風に吹かれ力を合わせてパドルを漕げば、彼女の心も解き放たれて...』
『ファミリーならカナディアンカヌーでキマリ!シングルパドルを巧みに操って急流を行けば ”パパってすごいや!”って言われることうけあい...』......雑誌には確かそう書いてあった。
「エーン、つめたいよー。」
「さすが3月だ。やっぱり水は冷たいや。ハハハ...」
「感心してる場合じゃないでしょ!そのロープ持って早く泳ぎなさいよ!」
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